雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

NGNとIPv6マルチプレフィックス問題の深層

この記事は微妙に正確ではない。ソースアドレス選択はポリシーテーブルを設定すればいい。ポリシーテーブルを配る方法としては、法人なら情シス部門が手動で設定するとか、Active Directoryのグループポリシーを使うとか、個人でもNTT東西なりISPが設定ツールを配ることが考えられる。問題は経路選択で、ゲートウェイと端末が連携し、複数の外部ネットワークに対して適切に経路制御するには、端末側だけでなくルータや網による対応が必要となり、サービス運用やセキュリティ上の要請を勘案した現実的な手法は確立していない。 (2008年7月16日 追記)

NGNIPv6インターネットを併用したいユーザーは,当面,NGN用のLANとIPv6インターネット用のLANを分けたり,IPv6インターネット利用時にはNGNIPv6接続を止めるといった自衛策をとる必要がある。

もちろんNGN閉域網に割り当てられているアドレスが増えればポリシーテーブルも更新する必要があり、その辺が面倒なのでポリシーテーブルを美しく更新できる仕掛けが欲しいとか、そもそも自律分散協調というIPの設計理念を踏まえた場合にステートレスな仕掛けが欲しいのは確かだ。
記事でも触れられているが、実は日本でばかりIPv6マルチプレフィックス問題が弄ばれる背後にある大きな政治問題って、そもそもブロードバンド時代にISPは必要かということだ。もっと直截にいうならば、2010年以降にNTT法をどう改正すべきかという議論と直結している。ダイヤルアップ接続時代には技術的に明確だったISPの存在意義が、まず地域IP網で揺らぎ、FTTHの普及とP2Pや動画投稿サイトの普及によるトラヒック増で決定的になりつつある。
NTT東西がGULAを使うべしという意見は主にISPを残すべきという立場からの立論だが、まだアドレス割当の規格しか決まっていない段階で、経路制御や端末によるソースアドレス選択の仕掛けなど、実装上の詰めはこれからの段階にあるため現実的とはいえない。通信キャリアがインターネット接続も提供すればIPv6マルチプレフィックス問題自体が存在しないし、諸外国ではそうなっているので、IETFITUに提案を出そうにも日本固有の技術課題としてしか受け取ってもらい難いことも問題だ。
記者はその辺の事情を分かりつつ、センセーショナルに煽ろうとして滑ってしまったようにみえる。少なくともポリシーテーブルさえ設定すれば、NGNISPによるIPv6サービスを併用できる以上「東西NTTのNGNサービスと,IPv6インターネットが併用できない」という書きぶりは明らかなミスリーディングだ。ぜひ記者の方は、もっと幅広く取材して、問題の技術・政治の両面での全体像を掴んでいただきたい。