雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

見え透いた嘘と次に控える波

EMAが27日、警視庁から大手携帯サイトに対して削除要請が行われたとする一部報道に対して「かかる事実は確認されませんでした」とするリリースを出した。しかし4月2日の読売夕刊に対して各紙が翌朝刊で後追いしたことから、警視庁生活安全部少年育成課を取材して裏を取れたものと推定できる。その段階では警視庁も取材に対して削除要請を認めていた。恐らく後になって根拠法令が曖昧であること、特に警察法2条2項との兼ね合いを整理できず、2〜3月に行われた口頭での削除要請はなかった方向で警視庁、EMA、コンテンツ事業者が口裏を合わせたのではないか。その上で青少年インターネット利用環境整備法の青少年閲覧防止措置の活用を検討することになったのだろう。で、せっかくコンテンツ事業者・EMAと警視庁で話がまとまったタイミングで読売社会部が神奈川の事件を報じたのが昨日までの状況。
もともと青少年閲覧防止措置は特定サーバー管理者の自主的な努力義務に過ぎず、警察から削除命令を出す建て付けにはなっていない。従って警察は「サイト管理者やサーバー管理者に対し、早ければ週内にも要請文を渡す」ことしかできない。しかし事業者が警察から要請文を受け取ったにも関わらず「出会いを求めるコミュニティー」を削除しない場合、出会い系サイト規制法の届出義務違反に当たる公算が大きい。それにしても判然としないのは、出会い系サイト規制法で規制されている「出会いを求めるコミュニティー」が、青少年インターネット利用環境整備法上の「青少年有害情報」に当たるかだ。
出会いそのものは犯罪ではないので「出会いを求めるコミュニティー」自体が「犯罪若しくは刑罰法令に触れる行為を直接的かつ明示的に請け負い、仲介し、若しくは誘引し、又は自殺を直接的かつ明示的に誘引する情報」に当たるとは限らない。児童を誘い出す目的で直接連絡を取り合う場合は「公衆の閲覧(視聴を含む。以下同じ。)に供されている情報」には当たらない。従って「出会いを求めるコミュニティー」かつ「青少年有害情報」に当たる情報は、男性に対して児童買春の斡旋を示唆する書き込み等に限られると推定される。しかし警察が削除を要請した情報が厳密に「青少年有害情報」であるか否かに関わらず、警察から要請文を受け取って削除を行わないと「当該書き込みを知りながら放置するなど、サイト開設者がその実態を許容していると認められる」場合にあたり「インターネット異性紹介事業」に該当する可能性も考えられる。
今後だが、引き続き事件報道などを通じて非出会い系サイトでの児童犯罪被害は報じられ続けるだろう。とはいえ衆議院の解散前に新しい法改正の動きが出てくるとも考え難い。そうすると総選挙後の秋以降に何らか動きが出てくることが考えられる。例年通りであれば2009年の少年犯罪被害について来年2月には統計が公表される。出会い系サイト規制法改正の効果が数字に表れるのは今年からで、出会い系サイトでの児童犯罪被害が激減する一方、非出会い系サイトでの犯罪被害が4桁に乗る公算が大きい。そうなれば携帯コミュニティ・サイトに対する世論の風当たりは更に厳しくなる。衆議院の青少年特別委員会でもEMA批判が噴き上がっているし、早ければ来年の通常国会へ向けて、追加的な犯罪防止策について具体的な動きが出てくるのではないか。
これからも児童の犯罪被害が起き続けると予想される以上、大人の事情も分からぬでもないが、見え透いた嘘で現実から目を背けても状況は改善しない。これまでの流れを踏まえると規制推進派はグレーゾーンを広くとって捜査機関の義務が少なく裁量の大きな制度をつくろうとするだろう。効果的に少年の犯罪被害を減らしつつ、表現の自由を萎縮させず、透明性の高い制度を業界主導で検討すべき時期がきている。

これまでの流れ: 昨年12月1日 改正出会い系サイト規制法 施行→3月19日 ITMedia「mixi“出会い”コミュ一斉削除 「健全化」の一環」→4月1日 青少年インターネット利用環境整備法 施行→4月2日読売夕刊「人気の「健全」携帯サイト、実際は「不健全」で大量削除」→4月15日衆議院 青少年特別委員会→4月22日 日経ITPLUS拙稿「出会い系規制でSNSを標的にするボタンの掛け違い」→4月27日 EMAが一部報道を否定、産経「サーバー管理者に閲覧禁止措置要請へ/警視庁、子供の閲覧防止求め 」→4月28日 読売「ミクシィで女子中生と知り合い、売春させる…26歳男逮捕」

未成年にも人気の携帯交流サイト「ミクシィ」や「モバゲータウン」に、警視庁が異例の削除要請に踏み切った。
削除要請を受けた6社のうち4社のサイトは、携帯サイト業界などで作る審査機関「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)」から「健全サイト」として認定され、フィルタリング(閲覧制限)対象から除外されている。認定サイトが児童買春の温床になりかねないと判断された形で、今後、審査のあり方も問われそうだ。

「不健全な出会いにつながる書き込みと判断したため」警視庁が削除要請をしたとの一部報道に関して、かかる事実は確認されませんでした。

当事者から記事の内容を否定するリリースが出たわけですから、何らかの対応が求められるところですが、これまでのケースから言っても検証は期待できないでしょう。下手をすれば記事にすることなく「なかったこと」にするかもしれません。

昨年12月の出会い系サイト規制法改正で、異性との交際を目的とする書き込みは「出会い系サイト」とみなされ、届け出や年齢確認などが必要となった。しかし、ミクシィなどの会員制サイトには会員が作った出会いを求めるコミュニティーが多数あり、警視庁少年育成課は2〜3月、運営会社6社に削除を要請した。
同課はさらに、こうした有害な情報を発信するサイトの管理者が自主的に子供に閲覧できない措置を取るよう協力要請を検討。ミクシィなど利用者50万人以上のサイト管理者やサーバー管理者に対し、早ければ週内にも要請文を渡す方針。

神奈川県警は28日、同県秦野市堀西、自称塗装工石塚昭洋容疑者(26)を児童福祉法違反(淫行(いんこう)をさせる行為)容疑で逮捕した。
県警は、石塚容疑者が13日間、インターネット交流サイト「ミクシィ」で知り合った女子中学生を車で連れ回し、会社員ら3人に売春させたうえ、車内でみだらな行為をしたとみて調べている。

(警察の責務)
第二条 2 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法 の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。

(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
二  インターネット異性紹介事業 異性交際(面識のない異性との交際をいう。以下同じ。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信(電気通信事業法 (昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号 に規定する電気通信をいう。以下同じ。)を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供する事業をいう。
第二章 児童に係る誘引の禁止
第六条  何人も、インターネット異性紹介事業を利用して、次に掲げる行為(以下「禁止誘引行為」という。)をしてはならない。
一  児童を性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、他人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは他人に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)の相手方となるように誘引すること。
二  人(児童を除く。第五号において同じ。)を児童との性交等の相手方となるように誘引すること。
三  対償を供与することを示して、児童を異性交際(性交等を除く。次号において同じ。)の相手方となるように誘引すること。
四  対償を受けることを示して、人を児童との異性交際の相手方となるように誘引すること。
五  前各号に掲げるもののほか、児童を異性交際の相手方となるように誘引し、又は人を児童との異性交際の相手方となるように誘引すること。

なお、異性交際目的での利用を禁ずる規約等に反して利用者が異性交際目的で利用している実態がある場合でも、サイト開設者が異性交際を求める書き込みの削除や当該投稿者の利用停止措置を行っていれば、当該サイトは、基本的には「インターネット異性紹介事業」に該当しませんが、当該書き込みを知りながら放置するなど、サイト開設者がその実態を許容していると認められるときは「インターネット異性紹介事業」に該当する場合があります。

第二条  3  この法律において「青少年有害情報」とは、インターネットを利用して公衆の閲覧(視聴を含む。以下同じ。)に供されている情報であって青少年の健全な成長を著しく阻害するものをいう。
4  前項の青少年有害情報を例示すると、次のとおりである。
一  犯罪若しくは刑罰法令に触れる行為を直接的かつ明示的に請け負い、仲介し、若しくは誘引し、又は自殺を直接的かつ明示的に誘引する情報
二  人の性行為又は性器等のわいせつな描写その他の著しく性欲を興奮させ又は刺激する情報
三  殺人、処刑、虐待等の場面の陰惨な描写その他の著しく残虐な内容の情報
(青少年有害情報の発信が行われた場合における特定サーバー管理者の努力義務)
第二十一条  特定サーバー管理者は、その管理する特定サーバーを利用して他人により青少年有害情報の発信が行われたことを知ったとき又は自ら青少年有害情報の発信を行おうとするときは、当該青少年有害情報について、インターネットを利用して青少年による閲覧ができないようにするための措置(以下「青少年閲覧防止措置」という。)をとるよう努めなければならない。