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Bitcoin考: 貨幣的な、あまりに貨幣的な

久々にBitcoinに興味をもったのはWebSig1日学校2013の基調講演を引き受けた際に紹介しようと思ったのが契機だった。講演の数日前に会社へいく道すがらBBC World NewsのPodcastを聞いていたらFBIによる闇オークションSilk Road摘発の報道で、日本人の中本哲史が開発した電子貨幣として紹介されていた。調べ直して流通量が10億ドルを超えていることや、この数ヶ月の乱高下を知って驚いた。
正直白状すると初めてBitcoinのことを知った時、興味深いがここまで世界で流行るとは思わなかった。1990年代後半から電子貨幣に興味を持ち、MOJO NationやLETSの試みに注目したが広がりをみせず、その後のSecondLifeで流通したLinden Dollarsや、数多あるゲーム通貨のRMTと似たような流行に終わるのではないかと諦めていたからだ。ところがBitcoinは今や米国・カナダ・ドイツといった国々が存在を認めて態度を表明しつつある。この新たなグローバル貨幣が謎多き日本人の作品として世界に紹介され、渋谷付近に世界最大級の取引所があるらしいにも関わらず、欧米のテンションと較べて日本での関心が高まらない理由も気になった。
他の電子マネーとBitcoinが決定的に違う点として集中管理する発行主体が存在しないこと、既存の通貨と連動せず独自の為替レートを持つこと、ポイントやゲーム通貨のRMTと違って役務提供や通貨での払い戻しを約束していないことなどがある。その詳しい仕組みに興味のある人は原論文が邦訳されているので、まずそれを読むといい。貨幣論の理屈として貨幣に価値を感じて受け取る利用者が十分な数いれば貨幣として成り立つ。しかしながら金のようなモノ自体の価値や、国家が法定した通貨とは別に、役務提供などの払い戻し保証もなく形もない電子貨幣が広く受け入れられて世界で流通することは私の想像を超えていた。
最近までCypherpunkのおもちゃだったBitcoinが今年に入って急激に社会から受け入れられた背景に、欧州通貨危機があった。キプロス金融危機で流通総価値が10億ドルを超え、当地のニコシア大学では今月に入って世界で初めてBitcoinで学費を受け取ると発表した。最近ではFBIによるSilk Road摘発で闇オークションサイトの決済手段として報道され、中国でのBaiduによる採用などBitcoin熱と取引所の閉鎖、米議会での公聴会や為替の乱高下など話題に事欠かない。
仮想通貨「Bitcoin」流通総価値が10億ドル超え〜キプロス金融危機が影響?
Bitcoin | TechCrunch
Bitcoins | Economist - World News, Politics, Economics, Business & Finance
Bitcoin Says Goodbye To Silk Road And Hello To Baidu, China's Google - Forbes
Chinese Bitcoin exchange DISAPPEARS, along with £2.5 MEEELLION - The Register
UNic to be the first university in the world to accept Bitcoin | University of Nicosia
日本にいると気づきにくいが、通貨や決済インフラの弱い国に住む人々や世界をまたにかける旅行者にとっては、手持ち現金の逃避先や決済手段としてBitcoinが魅力的な選択肢となりつつあるようだ。いちど六本木のBitcoinを使えるバーThe Pink Cowで開かれるオフ会に顔を出したが、参加者の多くは外国人で、国際送金や両替の為替手数料に嫌気がさして、グローバルな決済手段としてBitcoinが成長することに期待していた。歴史的な量的緩和を受けて、政府が発行量を調整できる管理通貨に対する不信感から、発行量が機械的に調整されるBitcoinの価値が貴金属と同様に安定することを期待する向きもある。米国でTea Partyを中心にBitcoinでの政治献金を求める声が強いのも、先日の債務不履行危機とも絡んで政府不信の姿勢を反映しているのだろう。
FEC Deadlocks on Bitcoin Contributions, Tea Party Reporting Exemption | In the Arena | Verified Voting
Bitcoinは貨幣論的に経済学者からは冷静に受け止められているが、法的な位置づけについては不透明なところも多い。今年に入ってカナダやドイツの税当局が税法上の扱いを明らかにしたが、外為規制との関係やマネーロンダリング対策、決済手段としての扱いについての国際的な対話はこれからだ。現金決済と較べれば取引が広報される分だけ透明性は高いともいえるが、資金の流れを追うには追跡技術が必要で、時間が経てば古い取引はブロックから削除されてしまう。
NapsterWinnyがコンテンツ配信を脱中心化したように、Bitcoinが可能性を示したCryptocurrencyは電子貨幣システムを脱中心化し得る。技術の本質と可能性を正しく理解して社会や制度と折り合いをつけるには、少なくとも向こう数年を要するのではないか。珍しく日本発の技術(ということになっている)で、西海岸で次々と関連ベンチャーが生まれ、どうやら日本にある企業が金融取引の中心となっている分野なのに、今のところ日本から発信される情報があまりに少ない。
ビットコインが生む「第2のケインズ」国際基督教大学客員教授の岩井克人氏:日本経済新聞
5人の本物の経済学者たちはBitcoinの未来をどう考えているか | TechCrunch Japan
Bitcoin Forensics - A Journey into the Dark Web | Magnet Forensics
Barons of Bitcoin: the Tokyo-based powerhouse that controls the world's virtual money | The Verge