雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

mp3がアングラだった時代

Winampが公開された1997年ぼくは秋葉原の雑居ビルにある謎のDOS/Vショップで店番してた。欧州のFTPサイトで落としたMODをBGMで流してたその店で、mp3はWareZな連中がCD-Rに焼いて交換するもので、持ち運びながら聞く手段さえなかった。mp3をつくるにはリッピングと圧縮に別々の不親切なソフトが必要で、Winampで音楽を聴くのはちょっとしたステータスだった。韓国の会社がMPMANを発表するのは翌98年2月、ガジェットとしては興味深かったけれどもMDプレーヤーと較べて高いし粗削りでメリットは感じなかった。

米Nullsoft, Inc.は20日(現地時間)、マルチメディアプレイヤー「Winamp」の最新版v5.66を公開するとともに、12月20日で「Winamp」の公開を含む“Winamp.com”の全サービスを終了することを宣言した。

mp3と聞いてピンとくる人がいれば、きっと「mpman」のこともご存知のことだろう。韓国のセハン情報システムが世界で初めて発表した携帯型mp3プレーヤーのことだ。この衝撃の問題作(?)が、いよいよアキバに登場する。

当時から日本のメーカーも携帯音楽プレーヤーの可能性に気づいていたが、DRMをどうすべきか、メディアはSDかメモリースティックか、codecはATRAC3かTwinVQかといった縄張り争い高尚な議論をしてて、コンテンツ保護はないし音質や圧縮率も大したことのない素朴なMP3がここまで流行るなんて思ってなかった。
mp3なんて失うもののない韓国・台湾メーカーやフリーソフトシェアウェア作者が手を出すものであって、いずれ本命として、がっつり権利保護されたハイテク高音質デジタル音楽の時代が来る、はずだった。日本の電機メーカーにとってmp3が違法かどうかはさておきリッピングは脱法的で、コピー制御のないPCM音楽機器を出すのはDATを製品化するためSCMSで権利者と折り合った交渉経緯を無視して信頼関係を裏切る厄介なことと映っただろう。
ところがAppleiTunesをリリースしてRip、Mix、Burnと堂々宣伝し、MicrosoftWindows Media Playerで追随した。さらにiPodの登場で音楽はライブラリーごと持ち歩くことが当たり前になってMDは陳腐化した。日本の電機メーカーも慌ててポータブル音楽プレーヤーでmp3をサポートしたが、気づいたらSONYは周回遅れで重くてゴテゴテした音楽アプリを度々リリースするもウォークマンで築いた地位を失い、Winampは歴史的役割を終えてマニアックなだけのアプリになった。
Winampが名実ともに役割を終えた今日、かつて日本的秩序の中でmp3がグレーゾーンとして扱われ、研究開発では先行していた日本が韓国メーカーやAppleに先を越された歴史を振り返って、似たようなシガラミや固定観念に囚われてイノベーションの芽を軽視していないか、物事を難しく考え過ぎて時代に取り残されてないか考え直したい。