大阪都構想 住民投票 雑感
大阪都構想の住民投票は僅差で反対が賛成を上回り、大阪市の存続が決まった。橋下氏は政界引退を表明したが、自民・公明・民主・共産が共闘して賛否伯仲という結果を考えれば、大阪市民のかなり多くが今の仕組みに対して改革を求めているとも解釈できる。今回の案は潰えたにしても、これからも地方自治の在り方を模索する議論のはじまりとなって欲しい。
外から見ていると、よく分からない選挙である。橋下氏は行政の無駄というが、大阪に限らず日本中の道府県と政令市との関係において、それは二重行政なのだろうか?バブル期に高いビルを建てたのは、あの時代特有の陶酔であって二重行政とは別の問題だ。
市と府で競ってビルを建てた大阪に対して、東京は市がなかったので庁舎としては都庁しか建てなかったけれども、お台場には随分と珍妙なビルをいっぱい建て、都庁跡地には高くつき過ぎて壊すことを断念した東京国際フォーラムを建てた。どちらが無駄遣いかというと正直よく分からない。あの時代、まとまった土地と開発資金があれば、器の数に関わらず、建てられるだけのハコモノを建てたのではないか?
わたしが住んでいる東京都世田谷区は総人口は約90万人、本来であれば政令市となっていい規模で総合支所制度も入れている。特別区と政令市とでは権限も財源も大きく異なる。実際に政令市政を望むかというと、世田谷だけ特別区から離脱して政令市になりたいかというと、くだらない話だが都落ちと感じる住民の方が多そうな気もする。大阪都構想にしても二重行政とか難しい議論とは別に、「都」という響きに漠然とした魅惑を感じた向きがあるのではないだろうか?
民主主義である以上、財源の再配分によるサービス低下に対して賛成できないのは自然な反応である。仮に再編した場合に実際どうなったかはさておき「公共交通機関の老人優遇が廃止されるかも知れない」といった噂を流した連中は賢いと感服する。
とはいえ民度は所詮とか、老人が若者に勝ったとかいう分かりやすい構図でもなくて、住民サービスという具体的な暮らしへの影響と比べて、二重行政というキャッチフレーズは住民投票で掲げるには抽象的に過ぎたし、大阪市内の南北格差も反映しているようで、今後の丁寧な分析に期待したい。
わたし自身は東京特別区について非常に戦時下のドサクサだから許された極めて中央集権的な制度と認識しており、大阪が真似しようとすることを正直なところ苦々しく感じていた。広域行政の必要性が高い東京オリンピックが終わった後に、東京でも真剣に考え直す必要を感じている。
最も小さな千代田区でさえ人口5万人を超えているから市政を敷くことができ、世田谷区は政令市であってもおかしくない。都区部の915万人という人口は欧州であれば国に匹敵するサイズで、基礎自治体として位置づけることは住民自治の本旨に反し、いまさら東京市の復古は考え難い。
成長を期待し続けた1980年代までは配当をどう分配するかの議論ができた。1990年代からは平成の大合併はじめ地方に於ける効率化と存続の議論だった。大阪都構想への賛否はさておき、橋下氏が戦後ずっと置き去りにしてきた都市部の地方自治の在り方に政策アジェンダとしてスポットを当てた点は評価している。
結果として堺市を巻き込めず、住民投票でも反対多数で頓挫したことは市民の見識だが、統一地方選よりも投票率が高く、半数弱の賛成票があったことは、都市のガバナンスに対する住民の関心の高さを示したともいえるのではないか。高度成長期に整備した都市インフラが急速に老朽化する中で、都市のガバナンスや財源を巡る駆け引きは、今後も政治的な争点であり続けるだろう。