雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

サラリーマンが「ボイス・エグジット」を行使できる条件

日本型サラリーマンは復活する (NHKブックス)』は面白そうだし、これを読んでからコメントした方がいいのかも知れないけれども、3年前に前の会社でボイス・エグジットを行使した者として、ここはひとつコメントせずにはいられない。
本田さんの懸念はたぶん正しい。正社員サラリーマンにとって「ボイス・エグジット」を確保する条件というのは、ミクロ的には次の行き先をみつけられるかどうかではないか。パラサイトシングルで固定費が小さかったり、遺産やストックオプションで多額の貯金があればいざしらず、わたしのように妻子と住宅ローンを抱えてろくすぽ貯金もないと、兵糧攻めに遭ったら何ヶ月と持たない。転職のときも、残った有給は消化したけれども、すぐに次の会社に就職した。というか退職を決めた時点で次の行き先は決まっていた。
で、次の行き先をみつけられるかの条件として、すごく具体的には自分のスキル・ポートフォリオが生かせて適切な処遇をしてくれる会社があるかという話になるけれども、その前提としてスキル・ポータビリティの高い仕事をしているか、外で求められている人材像や相応しい仕事を知ることができるような緩やかな紐帯を持っているか、労働市場が売り手市場になっているか、といったことがある。
とすれば、対象とする労働市場のセグメントで需給のミスマッチがあり、あるスキルセットやコンピテンシーを満たしたひとからみると売り手市場になっていることが好ましい訳だ。そして、行った先でも有利な立場を生かして、報酬やスキル・ポータビリティの高い業務、緩やかな紐帯をメンテナンスできるだけの業務範囲や時間的余裕、スキル開発などへの投資を引き出し、自分のエンプロイアビリティを更に高める、という正のスパイラルに入る。そして、雇用を保証されないしスキルも溜まらないし投資してもらえない非正規従業員との格差は拡大する一方なのである。
ところで上長が抜けてもう2ヶ月以上経つのだけれども、なかなか採用が進まない。一方に失業者も結構いて、一方にひとを採りたいのに採りたいひとがいないという悩みを頻繁に耳にしているのと、こういうのを雇用のミスマッチだなーと感じるのである。そして、そういうミスマッチが続く間は自分は「ボイス・エグジット」を行使できるぞという安心感がないといったら嘘になる。
採用に苦労して忙しくなったり仕事が進まないのも困るけど、自分がいつでも「ボイス・エグジット」を行使できる程度に雇用のミスマッチによる売り手市場という状況が継続して欲しいというアンヴィヴァレントな思いを持つ自分がいる。気づいたら同世代が使えない奴ばかりというのも困るが。

田中秀臣氏の『日本型サラリーマンは復活する』(日本放送出版協会、2002年)を読んで思ったのは、「ボイス・エグジット」を行使できるような、「自由」でより力強い「J型サラリーマン」像が仮に実現されえたとしても、それは「S層」(正規従業員)内部での話であり、むしろ「B層」(非正規従業員)の規模の拡大ないし維持や、処遇格差の拡大ないし温存をもたらすのではないか?
(略)
また、そもそも正社員サラリーマンにとっての「ボイス・エグジット」をどう確保していけるのかということも重要で難しい課題だと思う。