雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

紺屋の白袴は本当か

@ITに情報サービス産業の現状を把握する上で秀逸な記事が出ていた.生々しい数字が山ほど載っているので,ぜひ元記事を読んで欲しい.この記事では情報サービス産業の利益率が低く資本が薄いことこそ人材やITへの投資が少ない理由と分析しているが,それは違うのではないか.人月ビジネスから脱却しない限り,いくら資本を厚くしても利益率の改善は難しいし,人材はともかくITへの投資が少ないことは,実はあまり問題ではないかも知れない.
経理に疎いので間違いもあるかも知れないが,情報サービス産業以外では社内システムの構築・運用保守にかかる人件費は情報化投資にカウントされるけれども,情報サービス産業で自社リソースを使う場合は人件費にカウントされる可能性がある.そうすると「国内IT投資動向調査報告書 2004」で国内平均の売上高情報化投資率は平均1.9%に対して情報サービス産業が0.79%、中央値で0.58%というのは,それほど悪くない数字である気もする.
問題があるとすると「売上研究開発投資率は平均1.02%、中央値0.01%。人材育成の要となる教育投資率は平均で0.38%」という方で,これでは知識産業ではなく口入屋といわれても反論できない.平均と中央値の乖離をみると,ごく一部のパッケージソフトベンダが平均を押し上げる一方で,SIサービスや受託開発を中心とする企業はほぼ研究開発をしていないとも読める.
ただ,これも研究開発としてバジェッティングしていないだけで,業務の合間に新技術を習得したり,新製品の評価を行ったり,プロトタイプなどを開発するといった形態だと人件費に溶かし込まれてしまうので,本当に全く研究開発をしていないかというと疑問も残る.
研究開発予算や教育予算をバジェッティングできないのは,人月単価の決まっているSIサービスや受託開発では,そういった投資を行っても回収することが難しいということもあるのだろう.ただ人材が逼迫して,エンジニア個々人が「スキルの向上、または、教育投資をしてくれる会社を選ぶ」ようになると,優秀な人材を囲い込むために魅力的な研究開発や教育を売りにする企業も出てくるのではないか.
とはいえ人材への投資に見合う高付加価値の仕事を取れればいいが,人月以外の評価尺度をつくらない限りは生産性の向上に見合った売上を得られず,資本を厚くしたところで人材ではなくファシリティに投資して頭数=売上を増やすのが合理的という,儲からないほど台数を増やすタクシー会社のようなことになりかねない.駄目な運転手ほど遠回りして高い金を取るという点でも,タクシーは情報サービスの比喩に相応しいのだが.

「先進のソリューションによる経営効率の改善」。このお題目が最も遅れている産業、それが情報サービス産業だ。(略) 情報サービス産業は、人材の育成、そして企業体としての開発効率向上に対してほとんど投資がなされていない。(略) 利益率が低いのは日本企業全体に共通する特徴だが、これだけ低く、資本も薄くては、生産性向上に対する投資も確かに限定せざるを得ないのだろう。(略) 自衛のためにも、エンジニア個々人としては、スキルの向上、または、教育投資をしてくれる会社を選ぶといった対策をとっておくべきであろう。