起業するつもりが気付いたら三十路
献本御礼。本書は佐々木俊尚氏の面目躍如、期待に違わず同世代起業家の人物像が活写されていて、読むと何だか元気になっちゃうところが素晴らしい。ビットバレー華やかかりし頃にも似たようなヨイショ本が諸々出たが、本書が5年後にイタい本と評価されるのか、それとも通時的な価値を認められるのかという、いささか意地悪い興味もある。
自分は二十歳の頃からWebサイトの立ち上げとか仕事にして、会社とかサービスの立ち上げにはいくつも関わって、大学生の頃は起業するつもりでいたのに、ナナロク世代とかモロ同年代がこんなに活躍するようになったのに三十路になっても何サラリーマン続けてるんだろうとか微妙に振り返ってしまうことがある。
本書を読むと多くの起業家が逆境に陥っても諦めずに踏ん張って事態を好転させていて、ああ僕は結局のところ飽きっぽいし執念が足りないんだろうな、とか納得してしまうし、僕は結局のところ、個々の会社での経営よりも政治や経済に薄く広い関心を持ち、そういう好奇心を満足させられる場所を選んだのかも知れない。
ベンチャーに浮き沈みがあるのは当たり前で、取り上げた企業の何割かで出版後に紆余曲折があったとしても咎めるような話ではないが、取り上げられている企業の多くが普通に生き残りそうというか、成功してからも無茶な背伸びをしていないようにもみえる。上場していないせいもあるのかな。
実は本書に出てくるベンチャーのように、小さく始めてバランスさせながら徐々に成長するというのは、もともと日本の技術志向な中小企業では一般的な経営手法であって、ネットバブル期に伸びたごく一部ベンチャー企業だけが例外的だったのではないか。
一方でいわゆるナナロク世代の会社って世代的な広がりを持たないところが多くて、これからちゃんと成長しながら世代とか性別の多様性が出てくるのか、それとも会社と社員が一緒に歳をとっていくような縮小均衡モデルでいくのか、よく分からない。どちらにしても持続可能性が先にあって、それから広がりをどうつくっていくかという順番は正しいんだけど、ともすれば職人気質で小さく纏まってしまいそうな気もする。
本書の取り上げている会社はどこもキラリと光る素晴らしいところを持ち、地に足のついた事業モデルや経営理念を持っているが、やっぱりコアコンピタンスは技術ではなくサービスにあるのではないか。帯にある「先鋭的な超技術志向」が何を指しているかは不明だが、ひとことに技術といったときに、世界の潮流に追いついていることと、何かしら世界に通用する独自技術を掘り下げていることとはだいぶ違う。
楽天やライブドアと、本書で取り上げられている次世代ベンチャーとを隔てるのは、技術を重視しているかどうかよりも、横並びで競い合う成長志向か、利益の範囲で投資するバランス志向かの違いではないか。成長志向では外部リソースを使ってでもカバレッジを高めようとするし、バランス志向では技術蓄積による生産性向上が利益率を高めて投資拡大の原資となる。
そういった点でベンチャー第1世代よりも第2世代の方が技術に重きを置いているのは確かだが、あくまで世にある実装技術の効率的に吸収していることが中心で、世界に問い得る独自技術を生み出すには至っているだろうか。次世代ベンチャーは確かに技術力の蓄積を重視している点が従来よりも顕著だけれども、いわゆる技術ベンチャーといえるかどうかは再考を要する。その辺について佐々木氏がなぜ楽観しているのかは気になる。