成熟社会で機能する雇用制度
『虚妄の成果主義』は意外といい本だが、論理に穴があるとすると会社が成長しなければ回らないことだ。努力に対して報酬ではなく仕事で報いるって、組織が成長して次々と新たなポストが新設されないと難しいからね。成長の続く業界トップ企業なら回るかも知れないけど、業界2位3位で利益が上がってなくて市場が縮小気味みたいな会社じゃ真似できない。そういう会社でも頑張る若手が報われるって非常に重要。ロスジェネ問題を考えた時も、どういう制度をつくれば若手育成に企業が投資するかって、よくよく考える必要がある。若手の使い捨てを許しちゃまずいし、新卒一斉採用だと卒業年次で著しく不平等が生じる。雇用法制をどう構築するかって様々な議論があって非常に難しいんだけど、思考実験として今よりも平等で人材育成の進む雇用制度を考えてみた。
まず新卒一斉採用は廃止して通年採用・年齢不問とする。そして採用時に正社員と契約社員を分けず、入社時は見習社員(ポテンシャル採用)か管理職・専門職(職能採用)とする。見習社員は5年以上勤めたら理由なき解雇が認められない身分保障を得る。職能採用には身分保障はない。身分保障を得た場合も管理職・専門職に昇格した段階で残業代と身分保障を失う代わりに兼業と裁量労働が認められる。社員は管理職・専門職への登用を拒否することができる。管理職に向かない人材はラインから外して専門職とするか整理することで、優秀な若手が長い順番待ちを経ずに仕事で報われる環境をつくる。
この制度の特徴は年齢差別や正社員と契約社員の区別をなくしてILO111号条約の批准を可能とする点、保護すべき雇用を教育段階にある者と企業特殊的熟練を持った労働者に限定している点にある。真っ先に保護されるべきはエンプロイアビリティの低い訓練されていない労働者や、潰しの効かない特定企業特定業務に特化した熟練技能を持った労働者であるにも関わらず、これまでの解雇権濫用法理や労働組合は、強者である正社員を守るためにロスジェネを中心とした非正規雇用層を犠牲にしてきたのではないか。
企業文化として年功を重視し、終身雇用を売りにする会社があってもいいけれども、それを義務として全ての企業に押しつける必要はないのではないか。少なくとも自律的に働く管理職や専門職は、自分で自分のエンプロイアビリティをメンテナンスできるのではないか。
格差を是正する上で本当に必要なことは、財の再配分よりも希望の再配分ではないだろうか。それは職業訓練を受ける権利であり、仕事を通じて自分の能力を試し、研鑽する権利ではないだろうか。たまたま大学卒業時に新卒採用が絞り込まれていたことが一生に響くような仕組みは、一刻も早く是正する必要がある。法律や制度は強者の既得権益ではなく弱者を守るために構築されるべきだ。