雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

歌舞伎町で遇ったギークなタクシー運転手の編み出した、群衆の英知を活かした馬券購入法

WOCS 2008 Springに来ている。パネルディスカッションを聞きながら予測市場について少し考えているんだけど、たぶんsilent majorityを可視化するには使えそうだけど、多数決とかオッズの数字を神格化するのは良くないぞ、とか。
おごちゃんが群衆の英知が使えるなら、競馬でいつも本命が当たるんじゃないかと突っ込んで、楽屋で話題になった時に「否、群衆の英知をつかって競馬で儲けているヒト知ってますよ」といったんだけど、本番で割り込む機会がなかったのでブログに書いていたら、けっきょく第二部で話せたんだけど勿体ないので書き残しておく。
まだ恵比寿に住んでいた頃の話。その運ちゃんとの出会いは運命的だった。もう店を畳んで京都に流れたらしいのだが、歌舞伎町の外れにある雑居ビルの地下に「骨歌」という小さなスナックがあって劇団関係者とか出入りしており、そこのママさんは競馬評論家もやっていた。
で、その日どういう訳か彼女は伝説のタクシー運転手の話をしていて、彼は本業がタクシー運転手だったのが、趣味で競馬の予測ソフトをつくっており、そのソフトで計算した結果を売って生計を立てているらしい。自分で馬券を買えばいい気もするのだが、そうすると邪念が入ってチューニングがうまくいかないという。
予測がオッズを大きく変動させないように、口コミで限られたひとに売っているという。所属していたタクシー会社のシステムを組んで小遣い稼ぎもしており、いまさらタクシー運転手を続ける必要もないのだが、いまも好きで個人タクシーの運転手を続けているという。俄には信じられなかったのだが、頭に引っかかりつつ店を出て個人タクシーを拾った。
で、新宿から恵比寿に帰る途中、例によってタクシーの運ちゃんと諸々話していたんだが、やたらコンピュータに詳しい。タクシー会社の業務システムを自前で組んだという。「ひょっとして競馬の予測システムとか組んでいますか」と聞くと「なんで知ってるの」と聞かれ「さっきまで骨歌で飲んでて、あなたのことを話題にしていたんですよ」という話になり、自宅近くで停車したまま30分近く話し込んでしまった。
で、彼の予測アルゴリズムはよく考えられていて、何時頃のオッズ変動は厩舎情報から親戚などへのリークに基づいているとか、出走数十分前のオッズ変動は馬をみた観客の印象に基づく変動だとか、そういった意味付けをしているらしい。
このように、単純多数決だと本命馬ばかり当たる訳ではない点で群衆の英知ってどうよと考えてしまうが、様々な数字がその時々に群衆の誰かしらが何らかの情報や実感に基づいており、それらをどう解釈していくかというところまでモデル化して割り切った使い方をすれば、かなり使い出があるようだ。
それも様々な前提に基づいたモデルに過ぎず、モデルの前提が変わったり、その予測モデルに基づく投票モデル自体がオッズに影響を与えてしまうと成り立たなくなることは、デリバティブと似てリスクはある。だからタクシー運転手氏は、顧客を絞って予想情報を流しているといってたが、実際どれくらい儲かるのか後から確かめた訳ではないし、今もタクシー運転手氏が競馬予測で小遣い稼ぎをしているかは知らない。
群衆の英知をどう活かすか考えた場合に、群衆を神格化して単純多数決で丸投げすれば何かが分かるというのではなく、小さな兆候に着目し、如何にノイズにまみれた「隠れた声」を引き出し、様々な振る舞いの背後にある構造を捉えてモデル化していくか、といったことに気を配る必要があるのだろう。