雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

iPhoneは何を変えるのか

まだiPhone 3G触ったことないんだよ。どこのSoftbankショップいっても「iPhone 3Gは売り切れました」と立て札があって、店によってはpopで「ソフトバンクりんごだけじゃない!」とか書かれててさ、純増4位に落ちたauショップのお姉さんは、熱心に団扇を配っていたけれど。iPhoneってMacBook Airと似てて、持っていると最初の3ヶ月くらいはすげー格好いいけど、問題はそこからChasmを超えられるかだよね。
発売日にはmixiFacebookで購入報告や買わない理由が相次いでるし、何ヶ月か前にiPod TouchとかMacBook買ったのも、結局iPhone SDKは押さえておかなきゃって意識があったからだけど、結局この数ヶ月それどころじゃなかったけど。
政策屋として気になったのは、端末の国際競争力を気にしてキャリアのインセンティブ依存をぶっ壊したつもりが、最大級の黒船が世界にインセンティブ構造を持ち込んじゃったよ、とか、AT&TDoCoMoを翻弄したJobsのワガママを中国だけが突っぱねた交渉力スゲー、とか。
日本は成熟市場だから、機会さえあればキャリアはインセンティブ依存から脱却したかったはず。だから何ら法的強制のないまま、モバイルビジネス研究会での議論を受けて、なし崩し的に昨秋の各社料金プラン見直しがあった訳で、逆に何ら強制力がなかったからAppleは販売報奨金チックな仕組みを復活できた。個人的には2年縛りなしの価格も公表した方がフェアという気もするが、改訂以前の料金プランと違って2年縛りがかかっているから逆進性のような問題はない。とか勝手に思ってたんだけど、ちゃんと一括払いでも買えるんですね。トップノッチのガジェッター層が2年間も同じ端末を使うんだろうか。1年も経てば「俺ホントは16GBモデル欲しかったんだよね」「メモリ足りない」「追加料金を払ってでもいいから次モデルを」とか暴動が起きないか気になるところではある。彼らのことだから新機種が出たところで部下に無料であげちゃうのかなあ。とか不思議に思っていたら、案の定というか一括払いで買っている人々が結構いるらしい。8万円くらいってPC買えちゃうじゃん。
もともとキャリアに対して端末メーカーの競争力がないことが問題だったんで、端末メーカーがキャリアに自己流を押し付けたiPhoneには先駆者として拍手喝采を送りたい。けれどもキャリアがiPhoneAndroidか、Windows Mobileか、はたまたBlackberryかと悩み出すと、これまでのようなカスタムスタックや独自サービスに投資することが難しくなってくるよね。引き続きLinuxや最近オープンソース化したSymbianの上でケータイ独自文化が進むのか、それとも徐々にパソコン化が進むのか、という議論がある訳だけれど、向こう3年はケータイ文化って続くんだろうなとも感じる。ポケベルが廃れるの一瞬だったし、5年後どうなるかは読めないけどね。いまどきの子たちは音声通話なんて使わないから、意外とLTEGPSの載った定額制DSケータイとか流行ってるかも。いまごろキャリア各社が京都詣でしてても別に驚かないよ。
iPhone自体は使ってないので何ともいえないけれども、iPod Touchファームウェア2.0にしてもWindows Mobileにしても、パソコンなしでは使えないし、とてもメンテナンスフリーとはいえないし、手のかかるところはPCっぽいよね、という気がする。ただ各社とも端末プラットフォームの乱立で、端末とサービスとの両面で自社独自技術には張り難くなったというか、いつ革新的な新端末が現れるとも分からない、ひととおりリスクヘッジしておこうという話になれば、LTE世代では各社独自色の強かった日本のオペレータのプラットフォーム・サービスは均質化せざるを得なくなるのではないか。それはそれで料金競争に陥るリスクでもある訳だが。
iPhoneの登場ってMacintoshと同じくらい重要で、いわばタッチUI上での新しい競争が始まった訳で、これはPDA市場だけでなく遠からずデジカメとか他の家電にも波及することになる。ペンUIはWIMPの延長線上にあったが、マルチタッチと指の太さとか想定すると別の工夫が要る。Appleが組込み系市場に本格参入するとは現時点で考え難く、Macintoshの時と同様タッチUIにインスパイアされたユーザー体験が2〜3年後には様々なところで見られるようになっているだろう。WiiリモコンといいタッチUIといい、このところ何故エクスペリエンスの革新が相次いでいるかは、そのうち深く考え直してみたい。
何故いまエクスペリエンスか、というのは分からないんだけれども、何故エクスペリエンスの時代に任天堂Appleが強いのか、というのは何となく分かる。どちらもプラットフォームとアプリの両方に手を出していて、ドラスティックな変化を起こせるポテンシャルがある上、アイデアをカタチにするまでのリードタイムが短いのである。彼らがエクスペリエンスの変革に重心を置くのは正しい、とか評論家ぶってブログに書いている場合じゃないんだが。
しかしiPhoneは様々な意味で黒船だった。エクスペリエンスやプラットフォームだけでなく、キャリアと端末ベンダとの関係を覆し、携帯キャリアによる助成金を復活させ、ケータイで往年のゲームソフトのような行列をつくり、モバイルのグローバルなアプリケーション・プラットフォームを一夜にして築き、iPongやPhotoShareをみていると、日本の起業家たちが最初から世界を見据えたビジネス展開を図ろうとする刺激にもなっている。英語版のつもりで買ったStarmapで星座名が日本語で出てきたり、海外のコンテンツが最初から日本を意識しつつあることも垣間見ることができた。
まだMNPがあって二年縛りの影響も顕在化していないが、昨秋の料金改定を受けて、そろそろ携帯の買い替えサイクルは長くなり国内出荷台数は漸減するだろう。それはiPhoneが出ても変わらないどころか、加速する可能性もある。夏に買い損ねたアーリーアダプタ層が何ヶ月も経ってからiPhoneを買うかは疑問もある。冬商戦の頃「それほどでもなかったね」といった評価となっているか、フラッシュメモリ増量とか価格改定で最初に買えなかった層を引きつけるか気になるところではある。けれどもiPhoneの影響は出荷台数を超えて、これから3年から5年の間、端末ベンダの技術戦略やキャリアのサービス戦略、家電各社のエクスペリエンスへの取り組みなど様々なところに影響を及ぼすことになるだろう。僕もiPod TouchでだけれどiPhone向けにどんなUIが提供されるか観察していきたい、とかいってAppStoreで大人買いしてるし。
それにしてもガジェットマニア受けするスマートフォンPDA市場に留まるのか、ケータイやゲーム機の市場に入り込んで業界の風景を一変させるのか。モバイルオペレータとサービスプラットフォームのアンバンドルを進めることになるのか。そのうちケータイ並の信頼性になるのか、それとも進歩を止めずPC的なオープン性と不確実性を受け継ぐことになるのか。諸々考えて盛り上がるだけでも面白いよね。