雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

クラウドを追うべきか

クラウドについて楽天の研究所が追っかけていることは広く知られているが、他社の動きが見えない。何度か大手ベンダーに聞いてみたが、単価の高いサーバーが売れなくなるミドルウェアは経営層の受けが悪い、せめて最初から顧客がついていれば企画の通しようがあるのだが、といった反応だった。この点メインフレーム半導体の資産を持たず、あまり深く考えずにトレンドを追う中国の方がクラウド関連ミドルウェアの開発で日本よりキャッチアップが早いかも知れない。
海外ベンダーのクラウド・ソリューションが認知され、既存顧客からせっつかれた段階で日本のITベンダが慌てて追っかけても手遅れではないか。他社からミドルウェアを買うか、Hadoopのようなオープンソースお茶を濁すのだろうか。卑近なところで検索各社が数GBの検索つきメールサービスを無償で提供する一方、日本のISPが有償で100MBとかのメールを提供している現状とか考えるとサービスの競争力で大きく差がつき始めている。SaaSの動きが加速すれば、この格差は更に広がる公算が大きい。
大規模クラウドで管理することのメリットは中田氏の指摘する運用のしやすさや要素技術の隠蔽だけではなく、運用にスケールメリットを発揮できること、機能やシナリオを絞り込むことでテスト工数を削減できること、バージョンや運用環境を共通化し易く保守費を削減できること、フィールドでのデプロイメントを考えずリリースサイクルを短期化できることなど数多い。
一方でクラウドAPIをオープン化することは、これらクラウドのメリットを減殺するリスクもある。クラウド上で動くサードパーティのコードが増えると、運用支援を充実させ、後方互換性を維持するためにソフトが複雑化し、テスト工数が増える。効率的だが制約の大きな世界に満足せず、直行性や柔軟性を求める声も高まるだろう。そういった要望を受け入れれば受け入れるほど、クラウドにしたことのメリットを減殺する公算が大きい。
それでも2006年頃からAmazonを筆頭にクラウドのオープン化が進んだ背景として、検索エンジンとして後発のAmazonが競争のルールを変えるために仕掛け、他社もAPIを切り出して提供するノウハウの蓄積や開発者向けテストマーケティング、市場環境の変化に対するリスクヘッジとして追随したのではないか。それでもクラウドのオープン化は、データセンタの稼働率向上によるコスト低減やスケールメリットの追求、オープン・イノベーションの模索に効果を発揮する期待がある。仮に単機能型のクラウドと比べて運用保守に費用がかかったとしても市場の裾野を広げ、従来型のパッケージやつくりこみと比べれば低コスト、効率的かつ俊敏という期待もかかる。
クラウドへのキャッチアップとしては要素技術、サービス提供、アプリケーション開発といった切り口が考えられる。要素技術はHadoopなど参考となるオープンソース実装が出てきているし、これらのチューニングや耐障害性機能を付加するなどのhackに一定の需要はあろう。サービス提供は通信事業者やデータセンタ、ホスティング事業者が模索しているに違いない。アプリケーション開発も進みつつあるが勃興期の技術で変化が激しく、特に抽象度の高い層では勉強が無駄になることも多いだろう。けれどもクラウドが最もメリットを発揮するのは垂直統合型の大規模サービスで、そこを狙うプレーヤが楽天以外に出てくるか注目している。或いは逆に10年も経てばクラウドRDBMSやWebブラウザと同じように汎用化して、技術を自前で持っているかどうかなんて誰も気にしなくなっているのだろうか。

従来型ベンダーに求められる役割とは,第三者にとって使いやすいプラットフォームを提供することであった。つまり,壊れないハードウエア,管理しやすい基盤ソフトウエア,使いやすいユーザー・インタフェースを開発し,詳細なマニュアルや大規模な技術講習会をお客さんに提供することが,彼らの使命だった。
しかし,新世代のプラットフォーム・ベンダーは,基盤ソフトウエアを開発する上で,第三者にとっての使いやすさ,運用のしやすさを考慮する必要がない。GoogleAmazonの基盤ソフトウエアは,彼らが自社のデータセンターでのみ運用するものである。運用が難しくても,彼らが雇用する「スーパー・システム管理者」が扱えれば,それでよい。新世代のプラットフォーム・ベンダーが考慮すべきなのは,最終的に使いやすいプラットフォームの提供であって,要素技術の詳細や使い方を第三者に開示しなくてもかまわない。

この種の大きな波がモノになるには、長い期間がかかるものだ。グーグルにしても、サービス自体やデータセンターはあるとしても、ちゃんとお金をいただけるレベルのサービスができるようになり、それを販売する企業向け営業部隊をつくり、サポート体制をつくり・・・というのには時間がかかる。だから、今の時点では全然「まだまだ」だけれど、だから「ダメ」ではない。
今のところ、クラウドの主要な顔ぶれはアメリカの企業ばかりで、日本の企業は対応が遅れているようだ。

研究者の思いつきが,多くの消費者に商品として提供されるまでにかかる時間。パッケージ・ソフトウェア主流の時代なら,主流製品に組み込むのが早道だった。最近は汎用製品に組み込もうとすると,テストにかかる工数や,リリースサイクルなどがボトルネックとなる。ASPモデルであれば,こういったオーバーヘッドがなく,垂直統合された特定シナリオに対応したテストだけを行えばいいし,リリースサイクルは問題とならない。
とはいえ従来だと集中化に伴うコスト――高価なハードウェアやRDBMS――が別のボトルネックとしてあったが,Googleの特筆すべき点のひとつは,コモディティ・ハードウェアと独自ソフトウェアの組み合わせで,この問題を克服している点だ。