雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

大麻種子の扱いより有害情報の指定手続き見直しが先では

硫化水素騒動で懸念したことが、既成事実となってしまったようだ。青少年ネット利用環境整備法では青少年有害情報を民間が決めるが、記事中の有害情報とはインターネットホットラインセンター運用ガイドライン公序良俗に反する情報と推察される。ホットラインセンターは警察庁の業務委託で、警察庁はホットラインセンターがどういった情報の通報を受け付け、公序良俗に反する情報に分類し、サーバー管理者に削除要請すべきかを決めることができる。

大麻事件の過去最悪ペースの増加に歯止めをかけるため、警察庁は27日、大麻種子を販売しているインターネットの広告の中で、大麻吸引時の効果をうたう表現などを「有害情報」に指定し、プロバイダー(接続業者)に削除要請する方向で検討を始めた。

「インターネット・ホットラインセンター」は、警察庁からの業務委託により運営しています。利用者からの違法・有害情報の通報を受けて対応を行い、活動実績を警察庁に報告します。

以下のホットライン運用ガイドライン検討協議会の考え方にあるように、警察庁大麻種子に関する情報を新たに有害情報と指定したとして、最終的にホットラインセンターからの要請を受けて情報を削除するか判断するのはサーバー管理者である。現実には多くのサービスは約款で公序良俗に反する情報を削除する権利を担保しており、一部の匿名掲示板を除き国内のサービス提供者は公序良俗に反する情報の削除に協力している。
ホットラインセンターからの削除依頼は命令ではなく、最終的な判断を民間事業者に委ねているので、ホットラインセンターに対して警察庁が有害情報の削除要請について業務委託を行うことが、直ちに憲法の定める表現の自由に抵触するかは議論があろう。とはいえ青少年ネット利用環境整備法の審議では与野党で青少年有害情報は国が定めるべきではないと合意した後に、新聞が警察庁が有害情報に指定と報道することは誤解を招く懸念があり、国費が投入されていることや通報時の削除率などホットラインセンターの社会的影響力を踏まえ、公序良俗に反する情報の指定に当たっても十分な透明性と説明責任を要するとも考えられる。
折しも今年、青少年ネット利用環境整備法の立法過程で有害情報の定義の在り方について活発に議論されたところであり、ホットラインセンターの運用ガイドライン上の公序良俗に反する情報の指定プロセスも、かかる議論を踏まえて再検討すべきではないか。ホットラインセンターからサーバー管理者への削除要請は青少年だけでなく広く国民の表現の自由や知る権利に影響するため、青少年ネット規制法の定める青少年有害情報以上に社会的影響力が大きいからだ。
こう問題提起をすると、そもそも国が有害情報を定義すること自体が如何なものかという指摘もあろう。しかし繰り返しになるが、現行のホットラインセンターのスキームで、最終的に公序良俗に反する情報を定義するのはサーバー管理者で、削除要請は命令ではなく防犯を目的とした任意の情報提供に過ぎないとも考えられる。また、政府であれば憲法や法律上の制約を受けるところ、民間の方が却って暴走した時に止めようがないというローレンス・レッシグの懸念も無視できない。戦前に言論統制の一翼を担った大日本言論報国会や日本文学報国会も、今風にいえば民間第三者機関ではないか。国によっては通報窓口機関が民間の寄付等で運営されているが、日本では警察庁しか資金を拠出しなかったため現在のスキームに落ち着いたとも耳にした。有害情報を定義するのが政府機関であれ民間であれ、手続きが透明化され、責任が明確で、適正に運用されているかを確認できることが重要だ。
いずれにしても来年の法律施行へ向け、違法情報、公序良俗に反する情報、青少年有害情報など様々な概念が乱立している中、実情に応じて諸々の社会的影響と指定プロセスの透明化、官民の役割分担、適正運用の在り方等については忌憚なく議論し、必要に応じて整理する必要があるのではないか。
蛇足だが大麻種子規制への私見を補足すると、自分は吸ったことがないので興味がない。規制を要するのであれば大麻取締法を見直すことも考えられるが、現行法の運用に当たっては現行法が大麻種子そのものを規制していないことにも留意する必要がある。ホットラインセンターが削除要請を行うに当たっては現行の大麻取締法違反を直接的かつ明示的に請負・仲介・誘引等する情報のみに限定すべきで、種子の販売そのものではなく「大麻種子を販売しているインターネットの広告の中で、大麻吸引時の効果をうたう表現」についてのみ削除要請を検討していることは、概ねその趣旨に沿っているとも考えられる。そもそも大麻取締法そのものが占領期の立法であり緩和の方向で見直すべきとの意見もあるが、そこは最新の科学的知見や民意を踏まえて慎重に議論し、必要に応じて民主主義の手続きを通じて決めるべきことで、現行法の運用や防犯活動とは切り離して検討することが肝要と考えられる。

Q. 公序良俗に反する情報についての記載はガイドラインから削除すべきである。
A. ホットライン運用ガイドラインは、いわゆる有害情報全般を対象としているのではなく、犯罪や自殺を引き起こすおそれのある情報を対象として、その該当性判断基準を明確にしています。
また、これらの情報については、ホットラインセンターよりプロバイダや電子掲示板の管理者等に対し、利用者との間の契約や利用に関する取り決め等に基づく対応を依頼するものであり、依頼を受けたプロバイダや電子掲示板の管理者において、それぞれの判断に基づき対応を行うこととなります。

インターネットの憲法学

インターネットの憲法学

CODE VERSION2.0

CODE VERSION2.0