雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

ガイドラインは口コミ健全化にどう役立つか

昨日はWOMJの勉強会に行ってきた。マクドナルドの行列についてトレンダーズから、PPP騒動についてサイバーバズから説明があったのだが、炎上後にこうやって平場に出てくるのは勇気のいることで賞賛に値する。なかなか微妙なところではあるが、炎上に至るまでの行き違いは概ね理解できた。ワークショップの方は時間がもうちょっと欲しかったのと、最初にあまりフレームを決めすぎない方が良かったのではないかという印象もある。

これを機に、広告代理店やPR会社、クチコミサービスの事業者、ブロガーらが、「ビジネスの育成より、倫理の確立を重視すべき」「マスメディアでもグレーな手法が使われているからといって、ネットはそうであっていいのか」などさまざまな意見を出し合い、活発な意見が交換されるようになっている。26日に行われた準備会の研究会には約100人が参加して、クチコミと広告の境界線についての議論が行われた。

樹形図を渡されて読者目線で何が白か、黒か、グレーか、書き込んでくださいと指示されたのだが、便宜供与があるか、記事は強制か、PR表示の有無といった分岐が、いずれも代理店目線というか、大半の読者は普通そういうこと気にしていないよね、と感じた。実際の読者が気にするのは、自分の役に立ったか、胡散臭くないか、現実とギャップはないか、みたいなところであって、裏でカネが動いていなくとも違和感があれば重箱の隅を突くし、後からそれが便宜供与や金銭授受に伴う作為と気付けばなおさら許せないということではないか。
自分も記事を読んでちょっと変だな、と思ったところでPRとか広告って表示をみつけて納得することもある。透明性は情報発信者の義務というよりは、読者の期待と乖離が起き、或いは記事の公平性について疑念を抱かれた時に、背景を明かして納得してもらうための保険に過ぎないのではないか。みんながガイドラインを守れば口コミは健全化するんだろうけれども、悪質な業者はなくならないだろう。とはいえ手法に賛否両論あるが良心的な事業者が、思慮の浅さや読者との行き違いから炎上するケースは救えるのかも知れない。
ぶっちゃけ読者として期待を裏切られなければ、裏で金銭授受や便宜供与が行われていたって別に構わない。例えば著名なアルファブロガーが出版社から薄謝をもらって書評を書いたのだとしても、相変わらず爽快に弾言している分には誰も怒らないし炎上もしないだろう。GoogleがPPPと認定したサイトのペイジランクを落とすのは、それがアンフェアだからというよりは、利用者からみてノイズだからではないか。結局のところ読者が「ちょっと不自然だよね」と感じた時に「それはおかしい」「期待を裏切られた」という印象に至らないためのエクスキューズが必要とされているのだ。
斯様にガイドラインにできることがあるとすれば免罪符であってルールではない。確信犯でガイドラインを破ったところで本人が炎上リスクを引き受けるつもりがあれば構わないし、匿名でリスクを引き受ける気もないブロガーの肩の荷を下ろしてあげるには幾許か役には立つのではないか。わたしは他人に自分のルールを押しつける気はないが、当ブログのポリシーについて草案を起こし、プロフィール欄にも追記してみた。この項目は随時、見直していきたい。

  • モニターなどエントリーを起こす約束をした場合は[モニター]タグ等で明示する
  • 出版社や著者から献本を受け取って取り上げた場合は冒頭で献本御礼などと明示する
  • 対価を受け取って記事を書いたことはないが、その場合は[広告][PR]タグ等で明示する
  • 業務や活動に関連した告知は[告知]タク等で明示する
  • 明らかな事実誤認や虚偽について指摘を受けた場合は速やかに対応する
  • 記述が法令に違反することのないよう留意し、指摘を受けた場合は速やかに対応する
  • 本人の意志に反する記事を強要されるような約束は受けない
  • 何をどう取り上げるかブログの編集権は最終的に本人に帰属する

本来お金を受け取った時点で立派な仕事であって炎上したところで本人の責任だし、商売相手に迷惑をかけないのがプロなのだ。ところが口コミマーケティングというと、暗黙裏に無名のアマチュアを大量動員する含意がある。同じブログでも名前を明かして意見表明しているライター・著名人や、芸名で芸能活動をしている芸能人と、リンクとかベタベタ貼り付けて小銭稼ぎをしている匿名ブロガーとでは媒体として全く異なる。どちらかというと前者はマスメディアに近く、後者はサクラに近い。質の高い書き手はマスメディアに拾われることもあるし、報酬を抑えつつ動員力・投稿数を稼ごうとする限り、読者に影響を及ぼすだけの質を担保して媒体価値を高めることは難しいのではないか。書き手が素人であればなおさら、代理店が厳しい縛りをかけようとするほど、文章はしらじらしくなってしまう危険性が高まる。ブログにはマスメディアと違って編集という安全装置もない。
これからガイドラインについて具体的に議論が深まるとして、どんなガイドラインであっても紳士協定に過ぎず、実効性を高めるために知恵を絞る必要がある。多くの事業者にガイドラインを遵守しようというビジネスメリットを感じてもらう必要があるし、ガイドラインを掲げつつ遵守していない事業者と対峙する局面も出てこよう。ところで当エントリーの歯切れが悪いのはWOMJ事務局から「相手を尊重し、ネガティブは禁止」と繰り返し釘を刺されているからで、会場で感じた違和感とか、もっと書きたいことが諸々ある。誹謗中傷の応報は避けるとしても批判を何もかも封殺しては自己啓発セミナーになってしまう。厳しい利害調整の絡んだ難しい議論をしているのだから、個人攻撃は厳に慎むとして闊達な議論は必要ではないか。