高めのボールで思う壺 - 今回はユニセフ協会の作戦勝ち
そろそろ児童ポルノ法改正の件について書いておくか。まあ今回はECPATや日本ユニセフ協会の作戦勝ちだ。みんな準児童ポルノ規制を心配しているけど最初から見せ玉で、国際的にも前例がなく保護法益的にも無理があったので、最終的には自民党案から外れる公算が高い。
何がともあれメディアやブログ界隈で児童ポルノに対する議論が盛り上がったこと、準ポルノ規制反対に批判が集中したことで議論の中庸は児童虐待コンテンツ規制に対して賛成となり、単純所持違法化に向けて充分な地均しになった。早ければ今国会にも児童ポルノ法改正案が出るんじゃないかな。
僕らはそろそろ次の議論に備えなくちゃならない。ネット上の有害コンテンツ規制とか、遠からず北欧やドイツをモデルにした大人向けコンテンツ規制が、国際協調の視点から議論されるようになるんじゃないかな。その結果どうなり得るかは数日前に書いた。
無理筋でアピールを出して議論を惹起して実質を勝ち取った手腕には舌を巻かざるを得ない。誰もが準ポルノ規制に議論を集中させてしまい、気付いた時には幅の広すぎる児童の定義とか代用監獄制度の問題はすっ飛んだことは、見事に乗せられてしまったのだろう。まあ月並みな交渉術ではあるし、ブロゴスフィアの政治的未熟さが図らずも露わになってしまった。
僕らも言葉に脊髄反射するんじゃなくて、背景にある意図とか思惑をもっと思料できるようにならなきゃバランスある政策パッケージを提案できない。準ポルノ規制という目眩ましは軽くスルーして、児童の年齢定義見直しとか、親告罪にしようとか、単純所持違法化とバーターとなる対案を仕込みつつ、児童を守るという政策目標を共有しつつプリンシパルを設定すべきだったんだ。まだ法案が通った訳じゃないから、議論を深めるのは今からでも遅くないけどね。
率直なことを書き、サブスタンスで議論できるのが、ブログの良いところではある。大概は直接的な利害関係のない、緩やかな紐帯で結ばれたコミュニティだからね。ここでの議論が政策にどれほどの影響力を与えられるのか、よく分からない。米国での動向をみるに、日本でも今よりは影響が増すだろうという気はする。けれども結局のところ、質の高い純粋な議論を行うことと、現実を動かしていくこととの間には大きなトレードオフがある。僕らはいつまでもイノセントな議論を続けるべきだろうか、それともイノセンスを捨ててでも影響力を高める努力をするのだろうか。
僕は今のところ、このブログに駆け引きを持ち込む気はない。誰かに頼まれて書いている訳ではないし、自分が正気でいるために、自分の考えに対してフィードバックを得るために書いているのであって、影響力の行使は自分のリアルな領域でやればいいと割り切っているからだ。頭の中でモヤモヤしていることを吐き出し、時には事実を整理して論点を打ち出し、それで誰かを触発できれば、それで充分だからだ。けれどもブログでの議論の社会的影響力が徐々に高まった時、明確な政治的意図を持ってブラフをかけてくるブロガーは増えるだろうし、段々と駆け引きが高度化せざるを得ない気がする。そのとき僕らは、段階に応じて成熟できるのだろうか、それとも純化して明後日の方向へと暴走してしまうのだろうか。ちょっと心配だ。