雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

ネットいじめを解決するコミュニケーション・カウンセラー制度の検討

さて今回の業界提言ではネットいじめについて十分に対策が入っていない点が気になっている。ネットいじめなんて誰も定義できないし、それを有害情報で定義するなんて噴飯ものだが、ネットいじめ被害者を救済する方法というのは真面目に検討する必要がありそうだ。そこで今回の政策パッケージに入れるかどうかは悩んでいるのだが、コミュニケーション・カウンセラーのようなネットでの揉め事に強い民生委員や司法書士みたいな資格制度をつくれないか考えている。
直接の問題意識は、窓口機関連絡網をつくった場合に、そこのデータベースに誰がどこまでアクセスできるようにすべきか、というところから始まっている。データベースを一般に解放してしまうと逆に犯罪を助長してしまう懸念もあるが、北欧のように非常に限られた人々に管理を委ねてしまうと、フィンランドの国会で揉めたように、フィルタリングに批判的な言説までフィルタリングする言論弾圧が起こる。そこで、一定の水準でサイトをレイティングできる知識を持ち、職業や資格上の守秘義務を持ち、情報発信者の身許照会やメールの情報開示などを行う権限を持って、ネット上の揉め事を解決する専門家集団をつくり、特定電気通信役務提供者の窓口に対して、彼らからの情報開示請求に応える義務を課すのである。非常に少人数の委員会ではなく、彼ら厚みを持った職能集団がデータベースの適正運用を常に監視し、疑義のある登録内容について裁判所で紛争解決手続きを行うのである。
コミュニケーション・カウンセラー資格は数段階に分かれ、最上位の資格は弁護士向け、その下に司法書士向け、民生委員や一般向けの資格も設定し、それぞれ扱うことのできる問題と権限範囲が異なるようにする。試験の内容はWebサイトやインターネットの仕組み、フィルタリング・セルフラベル・ボキャブラリ・ゾーニング・本人確認手法といった技術的知識の他、ネット上のトラブル類型と事例・業務関連法令、問題解決に資する心理学・行動経済学・カウンセリング的な知見も求める。ネット犯罪の手口もネット技術も急速に進歩していること、精神的に負担の大きい感情労働であることを踏まえ、当面は3〜5年おきの免許更新を要する資格とし、心身の健康の必要に応じてクールダウン期間を設けるようにすべきだろう。適性検査と筆記試験、レイティングの実務試験を課し、下位資格についてはネット上での受験も可能とし、有資格者にも半年毎のeラーニングを義務づける。
免許の維持がそれなりに重い負担だが、弁護士にとっては問題解決の道具を増やすことができ、一般向け資格は在宅勤務やテレワークでの雇用機会を創出し、女性の社会進出に資するものとする。司法試験に合格できなかった法科大学院生の受け皿にもなるかも知れない。新潟にDeNAが300人体制の拠点をつくったが、ああいった仕事に従事する人々はこれから万単位に膨れ上がるだろうし、制度的に飛び道具を用意して迅速な問題解決を可能とし、充実したキャリアパスを提供できるようになる。
これだけ取得の難しい資格だと十分な見返りが必要となるが、

  • 窓口機関連絡網データベースへの接続登録権限
  • 窓口機関連絡網データベースに対する監査権限
  • 特定電気通信役務提供者に対する情報開示請求 (メール、本人確認情報など)
  • 特定電気通信役務提供者に対する情報削除勧告・利用者退会勧告・業務改善勧告

といった権限は、民事・刑事の問題を解決する上で非常に有益だし、司法人口が増大する中で、差別化を望む層にとって十分な価値を提供できるのではないか。もちろん特権に伴う義務として、

  • 厳しい守秘義務・職業倫理
  • 目的外利用等に対する厳しい罰則

などを課す必要もあるだろう。もちろん全ての特定電気通信役務提供者が専任のコミュニケーション・カウンセラーを抱えることは難しいだろうが、例えば資格がない場合に、

  • 窓口機関連絡網データベースへの届出 (登録は有資格者が判断)
  • 自サイトに対する接続防止措置記録にしかアクセスできない

といった制限を課し、資格を要する業務を外部に委託できるようにすれば、特定電気通信役務提供者の負担義務を軽減する一方で、業務委託市場を育てることもできる。弁護士と一緒で、大手事業者は内部で抱えるし、中小事業者は必要に応じて業務委託したり、顧問契約を結ぶことが考えられる。
こういった業務は労働集約的となりがちであり、費用負担が課題となる。ネットいじめからの権利回復などの場合、裁判などの紛争解決手続きと同様に、責任のある側が問題解決にかかる費用を負担すべきだし、ネットいじめの加害者の保護者が紛争解決費用を負担するスキームとすれば、保護者の自覚と教育を促すこともできる。全ての費用をサイト管理者やISPに負担させるのではなく、受益者負担の部分も残すことで、事業者の負担範囲を限定すると同時に、いじめを抑制する経済的インセンティブを設定することが現実的ではないか。
こういった制度について、それ自体が管理社会や訴訟社会を招くという意見もあるだろうし、コミュニケーションに第三者が介入することは通信の秘密とも関わってくるし、様々な目的外利用のリスクもあるが、まだまだ思いつきの段階なので、ぜひ批判なり提案をいただきたい。