神は細部に宿る
自民党案の内容について、昨日の日経、今朝のNHK、午後の読売と、徐々に情報がリークされている。第三者機関の登録制など、内閣部会案の色彩が濃いリーク内容の割に、総務部会ばかり引き合いに出されている点が気になるところだ。
ネット接続業者などが、青少年の有害サイト閲覧を防止する措置は「努力義務」にとどめ、罰則規定は設けない。サイトの有害性の判断基準を策定し、有害サイトを認定する主体は、政府が審査・登録した民間の第三者機関とする。国の直接関与を避け、憲法が保障する「表現の自由」を侵害しないよう配慮した。
審査・登録の要件がはっきりしないことには判断できないが、レイティング機関にとって登録を取り消されると商売が立ち行かなくなる訳で、政府がかなり強い影響力を民間第三者機関に対して行使し得るようにも読める。
仮に第三者機関としてSafety Onlineを策定しているインターネット協会を念頭に置いているとすると、窓口機関業務に関する警察庁との受発注関係など4月末の警察庁による「硫化水素」有害指定で顕在化したガバナンスの問題を整理する必要がある。
窓口機関と第三者機関を兼務できるようにすべきかについて、兼務することにより有害情報の実態を参考に判断基準を策定できるメリットがある一方で、窓口機関が事業として採算に合わず、財政支援を要する場合に、政府からの独立性を十分に担保できない公算が高く、有害情報の判断基準を政府ではなく民間が決める意義が失われてしまう。
理想的には各社の違法有害情報削除窓口を連携させるなど受益者負担で独立採算で分散型の窓口機関機能を運営し、違法有害情報に関する情報共有ルールを明確にして、財政的に独立し、透明な意思決定プロセスを持つ判断基準策定の第三者機関をつくることが望ましいのではないか。
EMAの審査料が高いことが話題となっているが、審査料を払えるだけの収益の上がっている大手事業者が、審査にかかる業務量に見合った実費を負担するのはいいとして、高額の審査料が実質的な参入障壁となってしまうと、技術革新を阻害してしまう懸念がある。財務の独立性と受益者負担の原則を尊重しつつ、公平性と新規参入に対する柔軟さをどう確保するか、知恵を出す必要があるだろう。
また、前のエントリで取り上げたような差別的なフィルタリングの被害者が、第三者機関にカネを払って被差別状態を解消してもらうというのはおかしな話で、サイトの有害性の判断基準の策定過程及びレイティング・フィルタリング事業者の運用について、ブロック対象からの異議申し立てに対する説明責任と業務改善義務を負うこととすべきではないか。
また、複数の第三者機関が各々でサイトの有害性の判断基準を策定した場合、ネットスターのようなレイティング・データベース事業者や、フィルタリングソフト提供事業者は、特定の基準に準拠するのか、最小公倍数で全ての基準に対応する必要があるのか等、考え始めると実はかなりややこしい。
今のところ記事の内容は限定的で、制度としてフェアで運用可能な仕上がりとなっているかは法案を読んで十分に検討しないことには判断できない。ひとことに第三者機関といっても、サイトの有害性の判断基準をつくること、基準に基づいてレイティングすること、レイティング等も参考にフィルタリング機能を提供すること、有害情報に関する情報を受け付けること、有害指定に対する異議申し立てを受け付け紛争解決を図ることは、何れも別の業務で、どの業務について登録制や届出制を要するか、審査要件をどうすべきか、兼務をどこまで認めるか、財務や運営の独立性を如何に担保するか等、慎重な議論を要する。
そういった意味で神は細部に宿るのであって、平場で検証して論点を洗い出す作業に殆ど時間をかけられないまま、短期間で法案が通るようなことは本来は望ましくない。自民党案が十分に詰まっていないのであれば、総務省「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」等で今秋まで議論を尽くし、次の臨時国会に内閣提出法案として提出することも一案ではないか。
どうしても議員立法による今国会での成立を目指すなら、ぜひ自民党にはフィードバックの余地がある段階で、一刻も早く素案を公表していただきたい。また短い日程で自民党と協議する公明党、民主党には是非、最終的な自民党案が、本当に実質的な「表現の自由」を尊重できているかどうかについて、細部まできっちりと確認していただきたい。