雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

フィルタリングより肝なネット時代の自助教育

審議日程を踏まえると交渉は今週前半が山場で、様々なところが再び声を上げている。できれば民主党案に沿った決着を、それが難しければ時間切れになることを期待している。これはわたしやネット業界に限らず、この件に関わっている関係者の多くも似たような想いではないか。
問題は民間自主管理を原則とした場合に、どういった政策目標を設定すべきかだ。そこで考えさせられたのは、子ども達をいじめや犯罪被害から防ぎたいというのと、児童間の人間関係がネットに広がって教師から把握できず学級運営に支障を来す、親として情報の制限を通じて子ども達の逸脱行動を防ぎたいというのは、かなり違う政策需要ではないかということだ。前者は国民あまねく共有する一方、後者はかなり個別的な教育方針とも関係してくる。
例えばわたしの高校時代の先輩は、兄弟の二人暮らしで時々母親が部屋の掃除に来ていたのだが、掃除の度に漫画は没収するけれどもエロ本は没収しなかったという。マンガは時間を食って勉強の邪魔だが、男にはエロ本が必要だし、そういったストレス解消があった方が受験勉強が捗ると考えていたらしい。閑話休題
実効性を考えた時、前者は子どもに対するリテラシー教育と相談や仲裁、後者は保護者に対する技術的保護監視手段の提供で手当すればいいのではないか。実のところ、既に子ども達は横の連携でかなり自衛している。振り込め詐欺に引っかかる年寄りと比べれば遥かにリテラシーの高い層で、だいたいの子は教師や保護者よりも分かっている。そういった自助能力を更に高めるための施策を考えるといいだろう。最新の犯罪手口や、それに対する対応を子どもに分かりやすいところに置いたり、悩んだ時に気軽に相談できる窓口があると良い。上からのリテラシー教育は展開に時間がかかる上に陳腐化が早いのに対し、ネット上での自助教育は、最新の内容を短期間で展開でき、陳腐化の問題がない。だいたい政治とか学校、教師、教科書といった仕組み自体がネット時代に追いついていないのだから、学校によるネット教育に大きくは期待できない。
児童間の関係がネットに移行しているのは時代の流れ出し、そういったニーズがあるにも関わらず、学校が子どもにネット上のサービスを提供してこなかったことにも問題がある。緊急連絡網や宿題の管理、授業関係の資料、部活などを網羅した、安全な学校表サイトをつくってはどうか。多くの学校裏サイトは、実用的な需要があってつくられている。充実した表サイトが機能していれば、利便性が低く危険な裏サイトを運営することが難しくなる。校則で裏サイトの運営やアクセスを禁じれば、さらに敷居を高くできる。少し違うが、企業内SNSを立ち上げてから、2ちゃんねるのスレが伸びなくなった会社も多いのではないか。
最後の「親として情報の制限を通じて子ども達の逸脱行動を防ぎたい」という点に対しては、フィルタリングソフトだけでなくMySpaceのペアレンタルコントロールなど、これから民間各社が強化しようとしているところだ。あまり厳しくしても不便で利用者が離れるし、緩くしても危険で利用者が離れる。その辺の案配は、頭ごなしに分かっていない政府が規制するよりは、市場で民間事業者を競わせた方が機能する。
むしろ政府の役割は、着実に違法行為を摘発することだ。ネット犯罪についても、きちんと被害届を受理し、犯人を捕まえる。児童ポルノや麻薬・薬物・拳銃売買、買春、殺人・自殺教唆、威力業務妨害など、違法有害情報の多くは違法行為と密接に関連している。犯罪者を摘発すれば社会もネットも安全になるのである。届出機関で違法有害情報だけでなく被害届も仲介すること、社会調査に基づく犯罪統計を整備することなどを通じて、ネット内外の犯罪動向を的確に把握し、実態に応じた犯罪対策を立て、犯罪者を着実に検挙することが、地味ではあるが最も重要な政府の役割ではないか。

5社は、国が関与する民間機関がフィルタリング(閲覧制限)の基準をつくる自民党案は「画一的な価値観の強制で、フィルタリングの正しい理解を妨げる」と指摘。有害とする情報の範囲も広くあいまいで、結果的に幅広い表現規制を招くと批判する。

民主党には「すべて民間で自主管理する」という原則を守ってほしい。自民党と話がつかなければ、今国会で成立させる必要もない。