雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

やはり情報サービスは斜陽産業なのか

前のエントリid:mkusunok:20051224:carrierについて、id:fromdusktildawnさんから素晴らしいコメントをいただいた。考えてみると昨今IT業界で元気がいいのはApple, Google, AmazonといったB2C企業や、OracleやSAPといったB2Bでもパッケージ製品を多数の企業に展開している企業である。日本をみてもプロ野球に名乗りを上げたYahoo!楽天Livedoorいずれも大量の顧客に対しサービスを提供している。*1パッケージソフトウェアに強いジャストシステムOBCも、同様に無数の小さな顧客をたくさん持っているといえるだろう。*2
少数の大きな顧客と取引するから、その顧客と力関係で負けて、おいしくなくなりがちなのであって、無数の小さな顧客をたくさんもてば、それは土方的でなくなるという指摘は、受託開発よりもパッケージや販売といった製品ビジネスの方が技術者が報われる理由として非常に分かりやすいし、より本質的な指摘といえる。更に踏み込んだサービスや価値を生み出し、提供するのは、あくまで自分自身でなきゃならないという指摘に至っては、そもそもITサービス自体を商売にするから買い叩かれるのであって、ITを使いこなして別の商売をした方が儲かる、という脱ITサービス産業の勧めとも読める。
どちらも非常に的を射ているけれども非常に手厳しいことをいっていて、個人単位では技術だけが分かっても駄目で誰かしらの顧客価値に結びつけるところまで頑張れ、ということでもあるし、事業としては特定顧客からの受託開発は引き続き買い叩かれても仕方ないから、業態を変えようねということだ。
これはキャリアパスや個別企業の経営の悩みに対する回答としては非常に正論だけれども、昨年度の特サビ統計でみると情報サービス産業全体の14.5兆円に対して受託ソフト開発は7.8兆円と*3で半分以上の割合を占めている。今後、このセグメントがどうなっていくのかは、多くの企業やIT技術者の人生に影響があるというか、買い叩かれても仕方ないと切り捨てるにはあまりに大きすぎる。
もうひとつ気がかりなのは同じ特サビで契約先産業別年間売上高の構成比でみると、輸出部門である製造業や、金融・流通・情報通信・エネルギーといった社会の重要インフラが対象となっていることである。銀行のシステム障害が多発した昨年、ひょんな機会に大手情報サービス事業者のCTOに原因について思い当たる節を聞いたところ、昔はどんなシステム開発でも大学で情報科学を専攻した専門家が構築していたけれども、最近は俄仕込みの素人が増えているとおっしゃっていた。*4
情報サービス産業の規模拡大に高等教育の拡充が追いつかなかったという面もあるにせよ、十数年前でさえfromdusktildawnさんが師匠さんから「おまえも頭脳土方になるのか」といわれたように、情報科学の専門家が既存の情報サービス産業よりも、金融工学バイオインフォマティクスといった情報技術を必要とする別の産業セクタや、同じ情報サービス産業でも新しい華やかな領域を選好したこともあるのではないか。また、既存の情報サービス産業に情報科学の専門家が就職した場合であっても、競争がなく市場規模も決まっている既存システムの運用保守よりは、研究開発部門や新規事業開拓といった、努力しだいで業績が大きく変わり、優秀な従業員のモチベーションも維持しやすいところに配置しようとするのだろう。先日の東証での事故もそれほど古くないシステムで発生しており、2006年問題よりも人材の空洞化と考えた方が納得できる。
これは最早キャリアの問題から外れているけれども、個人単位では給与が低く労働環境も悪い受託開発から優秀な人材の逃避は始まっていて、それがシステムの品質に対して影響を与えているにも関わらず、産業構造の転換が遅れていることで社会を支える情報システムが脆弱になっているということがもしあれば、これはこれで考えなければならない問題だ。
いずれにしても自分個人の処世術としては、fromdusktildawnさんが勧めるようにITも道具として使いながら誰に何ができるか、という視点で考える必要があるのだろう。さはさりながら社会が安定し、多くの人が幸せに働いているからこそいい暮らしができるのだから、マクロ的な議論として情報サービス産業の行く末に対しても思いを馳せたい。団塊世代の引退などを通じて自然と業態転換が進むのだという楽観的な考え方もできるし、ひょっとしたら取り返しのつかない事故が頻発する前に産業構造の転換を加速させる必要があるのかも知れない。
正直なところ情報通信を除くと、情報技術に支えられている産業セクタの多くでIT技術者の地位はそれほど高くないし、キャリアパスもみえづらいことには問題を感じる。銀行や証券取引所で多発する事故や、度重なる携帯電話などのリコールをみるにつけ、いつ消費者としての自分に火の粉が降ってこないかという不安もあるのである。

要は、少数の大きな顧客と取引するから、その顧客と力関係で負けて、おいしくなくなりがちなのであって、無数の小さな顧客をたくさんもてば、それは土方的でなくなることが分かった。ソフトウェアプログラム開発は、一回行えば、それによってたくさんの人にたいしてサービスを提供できることがウリの、労働集約型の対局にあるはずのサービス提供形態だったはずなのだから。
でも、最近は、そもそもプログラムは開発するようなもんじゃない、ということが分かってきた。それは、身体の拡張として使うもんで、脳のパワードスーツとして、使うもんだな、と。そのパワードスーツで強化された身体をつかって、顧客にサービスを提供する。プログラム自体を製品やサービスにするから、話がおかしくなる。
サービスや価値を生み出し、提供するのは、あくまで自分自身でなきゃならない。その自分の能力を増幅するための手段の一つが、プログラミングで、それは、自分の服、家、自動車のように、自分自身を拡張するものだ。自動車をフル活用して、町を自動車で走り回って交渉をまとめる営業マンが提供している価値は、あくまでその営業マンが直接生み出す価値であって、その方が、たんに自動車を貸し出すだけの商売よりも、いまの時代、付加価値をつけやすいのだとおもう。

*1:ライブドアに関しては財務諸表を読む限り、売上規模でみても成長性でみても金融業に分類すべき?

*2:但しこういったビジネスはグローバルな競争に晒されていることにも留意すべきである。ゲームを除くソフトウェア製品では数十倍の輸入超過だし、国内資本で生き残っているセグメントをみると、日本語や日本の会計制度、日本語コンテンツといった参入障壁によって守られていることが分かる。

*3:特サビ統計で数字をとった場合にYahoo!楽天といったWebサイトはどう勘定するという問題があるけれども、電通の統計によると同じ2004年のインターネット広告市場全体で1814億円だから、今のところ誤差の範囲といえる

*4:いや僕も経済学部卒業で、情報科学は独学なので、こういうの増えてるんだろうなぁと納得してしまいましたが