雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

僕が燻っていた頃

大学が決まった頃、僕の興味の中心は電子マネーで、けれども電子マネー関連の仕事なんてなくて、仕方なく通研での研究補助とか、外資半導体会社相手の受託調査を経て、国内メーカー系ECサイト相手にセキュリティのコンサルタントとして入った。2ヶ月ほどヒアリングとか調査を続けて「セキュリティ以前に、システムにカネかかり過ぎているから作り直そうよ」ってレポートを書いたら「そんなこといわれたって、どう作り直せばいいか分からないから、お前がやれ」といわれた。コードなんて1行も書いたことないのに、いきなりグループのシステム子会社を切って新規に開発ベンダを探す仕事が降ってきた。
汎用機の契約を切ろうとすると、システム子会社だけでなく、そこを植民地にしていた外資系汎用機メーカーのSE達がずらりと並んで僕を論破しにきた。論点の中心は今じゃ考えがたい話だが、SSLでクレジットカード番号を送ることの安全性である。当時はSETの標準化とかが進んでいた関係で、店舗がカード番号を受け取ることや、SSLそのものに対して懐疑的だったのだ。
幸いECOMのセキュリティ部会で安全性を巡る禅問答には慣れていたので、適当なテクニカルタームで煙に巻きつつ一通りの懸念を論破した。どこまで作り直すか紆余曲折もあったが、まずは使えそうなベンダを探し、フロントエンドだけ作り直して業務系は既存システムを残し、翌年度に運用費の枠内で低コストなシステムにリプレースしますという二枚腰作戦で2年かけて全システムを刷新した。
その案件の中盤となる大学2年の終わり頃、僕は前の会社に入社した。個人事業主としての収入の関係で親の健康保険から外れ、早く健康保険のある会社に入る必要があったし、いつまでも個人事業主ばかりしていては学生のくせに客や商売敵相手に背伸びばかりして、こんな人生早々からスキルが頭打ちするのが怖かったんだ。客先の偉いヒトに連れられて前の会社の創業パーティーに行ったら、そこの副社長から「遊びにおいで」とメールを貰った。
最初は掛け持ちのまま週2回くらい遊びに行く代わりに、健康保険とお小遣いを貰う契約だった。そこの会社はL3に強く、僕はL7系のエンジニアだったので向いてる仕事はなかったんだ。入社が決まったのはよかったけれど大学は英語の必須単位を落として留年が決まった。2度目の2年の連休前、とあるアプリケーション関連の受託調査案件が焦げていることが分かり、名乗りを挙げて急遽そこに投入された。連休返上で連日泊り込んで調査し、レポートを書き、1ヶ月くらいでプロジェクトを立て直した。ここまで貢献したんだから正社員にしてくれとお願いして給与も見直してもらった。
問題はそれからだった。立て直した案件は無事検収を通ったものの、デスマーチ化したことで赤字となってしまった。羹に懲りて膾を吹くというか、それ以来その会社は受託調査を請けなくなり、もっと事業寄りの技術支援やSI案件を行うことになった。コンサルティング目当てで入った僕のアテは早々に崩れてしまった。苦手を承知で修業として、データセンタで光ファイバの配線を敷いたり、ECサイトのネットワーク設計をコンサルティングした。査定では「君が実績を出したの、最初の数ヶ月だけだな」といわれ。暇だったから、当時は出始めていたけれども整理されていなかったLinuxIPv6関連パッチについて、まずは自分でパッチを試し、インストールを簡便化するためにRPMパッケージを整備した。
仕事の縁で電子マネー専門誌の編集部に呼ばれてICカードOSについて解説したら、いま話してくれたようなことを書いてくれといわれた。会社が受託調査を止めてしまった都合、自分で勉強するにはいい機会だと思い、執筆を引き受ける代わりに名刺をつくってもらった。翌年夏、i-modeEZwebもサービスが始まって面白くなりそうという時期に、付き合いのあった携帯コンテンツに強い学生ベンチャーに来ないかといわれた。上司に相談すると「いちど小さな会社にいくと、大きな会社に入れなくなるよー」と脅かされ、いま考えると前の会社だって上場前で小さかったんだが。その後、誘ってくれた副社長から「せっかく燻っている君のために仕事とってきたのに。全然ビジネスマナーのなっていない君が、同世代ばかりの会社に入ったりしたら、ずっと使い物にならない人間のままだぞ」と叱られ、転職は諦める代わりに週1日だけ行く予定だった会社を手伝う許可を貰った。けれども給料を貰うことは認められず、代わりに空いている部屋を現物支給してもらった。隣の部屋にある会社からLANを引き、rawhideベースの俺流ディストロで自宅サーバーを立てて、Linux 6bone JPへトンネルを張って、自宅でIPv6♪とか喜んで遊んだっけ。
こんな風に10年近く前、僕は悶々としながら様々なところへ引っ張られ、流されるままに寄り道し、悩みつつ脈絡のない様々なスキルを身につけた。誰の背中をみても自分と違っていたし不安だった。今だって誰かの背中をみて生きることが出来るほどレールに乗っちゃいないけど、それほど不安じゃない。ひとつひとつの機縁を糧にして「どうしてもこれを成し遂げたい」「世の中のこうおかしいところは自分がこう直す」というプルの気持ちを持って、成し遂げればそれでよし、成し遂げられなければ自分の足りないスキルに気づいて研鑽を積めばいいじゃないかと思う。僕が世の中に関わろうとするくらい、世の中が僕を必要としてくれればそれでいいのだ。意志を持ちつつ流れに身を任せていれば、自ずと途は開けるのではないか。

 「こんなところにいて時間の無駄じゃないか」というプッシュの気持ち(=出たいという気持ち)だけで飛び出すのは確かにリスクが高い。今の職場がなまぬるいなら、決意が固まるまでの間は、それを利用して自分なりの勉強をするなり、会社の外の人に会うなり、何か手を動かして作ってみるなりすると良いと思う。そんなことをしているうちに、「どうしてもこの人と働いてみたい」「どうしてもこんなものを作ってみたい」というプルの気持ちがはっきりと表れて来たら、迷う必要もなくなる。