雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

脱コモディティ化の自分戦略

高卒で公社に就職し国内最大手SIベンダを今年の3月末で役職定年した親父は,僕の神奈川大学への入学が決まったとき,すぐに自社の新卒採用を調べて「明治法政まではいたけど,神大からはひとりも来ていないなー」と残念がった.
典型的な学閥/年功序列/終身雇用の大企業で仕事能力と関係なくキャリア組にどんどん追い越されて悔しい思いをしたであろう親父は,小さい頃から僕にみっちり教育し,無理をして塾に通わせ中高一貫の私立に通わせたけれども,親の心子知らず,僕は授業は寝通し,家でも全く机には向かわず,アマチュア無線や学校新聞に没頭し,スクープを飛ばしては先生方の怒りを買って中学で成績を理由に留年し,高校でも留年が決まり親父から「もう学費は払わん」と一喝されて中退し,親父の世話で小さなソフトハウスに就職するつもりが,河合塾でアルバイトしていると噂のある先生から「できれば大学くらい出ておくに超したことはないし,塾で勉強して大検を受けてみてはどうですか」といわれて河合塾COSMO(大検コース)に入った.
マスコミ志望で政治や文学に強い関心を持っていた僕は,塾に入ってからも早々に色恋沙汰で問題を起こしたり,学生や全共闘世代の新右翼新左翼の人々と飲んで議論したり,政治経済の先生から勧められたE.フロムやW.リップマンやオルテガとかを読んでいた.そんな調子で懲りずに全く勉強しないものだから受験には失敗し,浪人してからもジャナ専に潜って早稲田の学生とどんちゃん騒ぎを起こして飲み過ぎで救急車を呼ばれたり無頼を通していたのだが,政治の季節はもう何十年も前に終わっていて,消費と追憶の対象でしかないなという哀しさがあった.僕らの世代で,自分の関われる別の地殻変動を待っていた.
1995年の夏ごろ憧れだったインターネットが普及しつつあるのをみてからは,秋葉原に入り浸って日立ソフトのショールームに通いつめ,新しい技術を追っかけてはスタッフの人々にみせていたら,次第に「お客さんにこれみせたいんだけど,手伝ってくれる」といわれるようになり「やたらとネットの最新技術に詳しい謎の予備校生」として顔を売ったけれども,仕事を頼むと受験やめちゃうだろうからなー,ということで大学が決まるまでは仕事を出さないという就職協定が僕の知らぬところでできあがっていた.
とゆー訳で大学が決まった頃にはアルバイトはよりどりみどりだったんだけど,とりあえず憧れのライターと,開発補助とか研究補助のようなことをツラツラとやっていた.僕が周りから引く手あまただと知るなり,親父からも仕事を紹介するよといわれたけれども,断った.親父のコネでやっていると思われるのは嫌だったからだ.大学1年のとき共著で『ビジネスマンのための情報革命キーワード97』という本を出し,親父の元上司とか色々なところに送ったら,親父の勤める会社の系列シンクタンクから「アルバイトに来ませんか」と丁寧な手紙をいただいたのだけれども,自分のことを忙しい気がしていたし,気が進まずご挨拶もしなかった.
2年くらいフリーランスで働いて,自由で実入りは悪くないけど不安定だし,いつも背伸びして客から賢く思われようとすると,自分はどこで勉強すればいいんだろうかとか考え始め,大学2年の終わりに前の会社に就職した.
1年ちょっと働いたけど自分の得意分野と会社の事業領域にギャップがあって,苦手なことばかりして周囲からお荷物と思われているのが面白くなくなって,何より同世代がいないのがつらいなぁと感じ,同世代のやっている学生ベンチャーに役員として転職しようとした.年収とかも決まったところで上司に切り出したところ,彼らは腐っている僕をみて,僕のための仕事を用意するところだったという.もう会社をつくるところまで決まっていて,いまさら抜けられては困るという.仕方なく「そこまでお膳立てしてもらったのなら責任は果たすけど,同世代がいないのは寂しい.年収が増えないのも納得がいかないので,引き続き在籍して週4日は新しい会社をつくるのを手伝うから,週1日は次にいくところの仕事をさせてくれ.行こうとしている会社の役員になるのは諦める」ということになった.
手伝った学生ベンチャーは,青学とか慶應とか東大とか,そういうところからばかり人がきていた.けれども彼らは別に学歴で差別してるとかはなくって,たまたま知り合いをたどって人を集めたらそうなったということで,その証拠に僕のことを快く迎え入れてくれたし,けれども雰囲気的に,僕の大学での同級生で,こういう雰囲気についてこれるひとは少ないだろうな,と感じだ.たぶん学歴とか家柄とか都会人か田舎者かって,資格や能力というよりも,繋がりとか,空気に対する敏感さのような何かじゃないかという気がした.それは何に打ち込み,誰とどういう時間を過ごし,それをどう自分のなかで位置づけられるのかということだ.
手伝った会社は半年も経たず大手ポータルに買収された.僕はまだ学生だったから,新卒採用で憧れの新聞社に入ろうか悩んだ.新聞社系列の出版社でスタッフライターとして名刺も持たせてもらっていたくらいで,頼めば編集長が推薦してくれるという.飲み歩いていたゴールデン街で記者や編集委員を捕まえて相談したら「新卒で入ると,これまでの経歴のことは全く考慮せず夜討ち朝駆けのサツ回りとかでコキ使われて,十何年か経って自由に書けるようになる頃には目が死んで,書きたいことなんてなくなっているよ.君はIT業界でこれまでのキャリアを生かしてチヤホヤされた方が面白いんじゃないか」と忠告されて就職活動はしなかった.
現金なもので仕事で活躍し始めると,僕を留年させた高校や大学から「OB会の規約を改定するから入ってくれ」とか「卒業生の活躍を小冊子にまとめるから一筆寄せてくれ」といわれる.僕はいま3年半いた会社を辞めようとしているけれども,広く網を張って外から目に見える仕事をしていれば,そうそう食いっぱぐれることはない.会社にしがみつく必要がないから筋を通すことができるし,筋を通しての失敗なら,誰のせいでもなく自分の責任で納得がいく.説明できない途を歩んだら,却って次の次くらいの就職で困りそうな気がするから,少々リスクがあっても我を通す.

という訳で僕は,中高時代から学校新聞の論説で学歴主義を批判し,自分の成績が悪いことについて強いコンプレックスを持ち,見返してやるという劣情もあってヒトとは違うキャリアを歩んできた.「それは君に才能があったからできたんだよ」というひともいるかも知れない.そもそも新卒採用というのは従順な白紙の羊を採るためにやるのだから,学歴というのは立派なスクリーニング材料である.
新卒で会社に入ろうとしたら学歴差別されたって?そういう画一的な基準で評価されるところにノコノコいく方が悪いんだよ.そんなに新卒でいい会社に入りたいんだったら,いい大学いけば良かったじゃん.いまの自分の経歴を受け入れて,どうしてもいい会社に入りたいんだったら入りたいなりに,中途で入れてもらえるだけの仕事能力を身につけられる居場所を考えるとかさ,もっと自分の頭を使って,確率の高い方法とか,自分に有利な売り込み方を考えてみろよ.君は少なくとも「従順であれ」という競争に負けたんだから,そういう均質的な枠組みに入っていこうとして差別されたって仕方ないんだよ.本田先生のいうような職業能力による採用というのは,中途採用の枠組みでやればいいのであって,学生だろうが新卒だろうが中途採用の枠で申し込んじゃいけないという道理はない.企業は中途採用に対して即戦力を期待しているのだから,即戦力であることを示せれば採ってくれるだろう.企業は多様な人材を必要としているのであって,採用基準を透明にせよという主張自体が社会を学校化する危険性に,本田先生は気づいていらっしゃるのだろうか.
飯田先生の提示したオプションの中で,僕は「能力ある人材の選別にあたって学歴をスクリーニングに使うのは無駄が多い.もっと良い方法があるからお試しあれ」というのに与する.それは空論ではなく,企業のなかでマイナーな事例として,かなり出始めているのではないか.ゲーム業界やネット企業では僕に限らず在学中からの就業は一般的だし,似たようなものになりがちな他人行儀の履歴書より,本名をGoogleで検索すれば遥かにごまかしのきかない経歴が表示される.いまどきの子たちは早ければ高校時代からblogを書いているし,ネット企業の中には採用にあたって参考にするところも増えているようだし,聞くと履歴書よりもよほど参考になるという.どんな文章を書けるかだけでなく,コメントやトラックバックのやりとりを通じて人間関係やコミュニケーション能力*1も垣間みることができる.

ところで僕が大学が決まったときに入れないと宣告された親父の会社には,2つ年下のサークルの後輩が入社した.わたしの知っている外資系有名企業も,今年からエントリーシートから大学名の記入を外したようだ.*2企業の求める人材像は曖昧ながらも変わりつつある.さらなる行動変容を促すには,企業の採用行動に対して社会的公正や正義を押し付けるよりも,企業がよりよい人材と巡り会えるための方法論を,小さくてもいいので具体的な成功を通じて例示していくべきではないだろうか.会社だって就職サイトだって,所詮は商売なのだから.

このように、就職サイトでは、登録した学生の大学名によって自動的に情報提供のスクリーニングが発生しているのだ。もし学生が就職サイトだけに依存せず、様々なルートを通じて企業にアプローチしているなら、こうした情報格差は緩和されるだろう。しかし、もし学生が就職サイトから来る情報を重視し、そこから送られてくるメールや資料の範囲で就活を行おうとするならば、それは大学間の情報格差生成装置たる就職サイトの陥穽に自らはまりこんでしまうことに他ならない。こうした就職サイトの弊害はもっと世の中で喧伝されるべきだ。

問題を整理すると,本田さんの話は

  • 経営者は株主の意向を無視して(利潤最大化に反する)学閥優先人事を行っている!株主は経営者への監視をせよ.
  • 能力ある人材の選別にあたって学歴をスクリーニングに使うのは無駄が多い.もっと良い方法があるからお試しあれ.
  • 学歴差別撤廃のために株主は金銭的な負担をすべきだ.

のいずれかの形式をとるべきではないかと思うのです.

*1:本田先生の嫌いなコトバをあえて使ってみる

*2:結果として新卒がほとんどT大に偏ってしまったらしいと聞いたときは爆笑したが.エントリーシートに大学名を記入させて主要大学からバランスよく採るのと,記入させず結果として偏った特定の大学から採るのと,どっちが公正なのだろうか.