雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

「真実の預言者」は誰が何を隠したいか既に知っている

情報大航海プロジェクトがCEATEC真鍋かをりGoogle八分を説明させるビデオを流したという.ストレートに取るとGoogleだけが検索を握っていると,Googleとか米国に都合の悪い情報を検索できなくなって問題だということだろうけれども,国家安全保障の観点でGoogleの本当に怖いことは別にある.
Googleは彼らが自覚しているか別として,既に権力者からGoogle八分依頼を受け付けることで逆に世界各国の政権を転覆し得るスキャンダルデータベースを握り,各国政府からGoogle Earthの削除依頼を受け付けることで世界の軍事拠点データベースを握ることのできる立場にある.これはGoogleの高騰した時価総額や膨大な手元現金以上に,彼らの考える世界政府を樹立する上で強力な政治力を発揮するだろう.
beyondさんの指摘をみると,閣僚についての過去のまずい情報についてGoogle八分にすることは実際に行われているようなのだが,これって裏を返せば都合の悪い情報一覧を利害関係者が進んでGoogleに提供していることになる.中にはいわれのない誹謗中傷もあるにせよ,玉石混交の削除依頼リストから時の政権を転覆し得るほど本当に都合の悪い情報を探し出すことは,さして難しくないのではないか.そして民主主義国家の権力者たちの多くが他の議員との競争に晒されている以上,それが検索を通じてブロガーやブラックジャーナリストの目に触れるよりは,Googleに弱みを握られることを選ぶのではないか.
池田氏が指摘するように,ある検索エンジンが自社または自国に都合の悪いコンテンツを隠蔽するだけなら,競争によって情報への公正なアクセス機会を担保できる.けれども「どの情報が誰にとって都合が悪いか」を漏らすことがリスクだとしたら,競争によって問題は解決しない.GoogleだけでなくYahoo!Microsoftに対してもセンシティブな情報を含んだURLのリストを伝えなければならない訳で,却ってリスクが増大するだけである.
残念ながら情報大航海プロジェクトがかなり成功したところで,このリスクを回避することは難しい.たった数百億円でGoogleに匹敵するテキスト検索システムをつくれるかどうかでさえ怪しいのに,呉越同舟で様々な企業が相乗りしているこのプロジェクトが,GoogleやYahooを超える商業的成功を収めるとは考えがたい.そもそもページランクアルゴリズムに国境はないし,そこそこ自動翻訳が実用的になりつつあることで言葉の壁さえも低くなっている今日,少なくとも検索という世界に於いては,世界に打って出る気概のないプレーヤは国内で一定の地位を占めることさえ難しいのではないか.
実際にGoogleがこの武器を使う可能性が顕在化した場合,権力者の対抗策は中国が行っているようにGoogleに対するアクセス自体を制限することである.けれども第二次大戦で敗北した日本は憲法電気通信事業法で検閲が禁止されているため,憲法電気通信事業法を改正しないとこの強硬策は実施できないし,政治家のスキャンダルを隠蔽するための憲法改正が国民に受け入れられるとは考え難い.
とすると米国に於けるネット中立性の議論は思った以上に味わい深いテーマなのかも知れない.Wikipediaへの支援やYoutubeの買収も,世界政府樹立へ向けた政治力の獲得という観点で捕らえると非常に的確な投資対象にみえる.いずれもメディアとして大多数の人々に情報を配信するインフラであると同時に,誰にとってどんな情報が都合が悪いかを一元的に把握できるデータベースでもあり,実は後者こそ世界を変える権力の源泉となり得るのである.
不甲斐ないことにわたしは,邪悪ではないGoogleのもとで正直な政治家が治める世界に住んでみるのも,それはそれで快適かも知れないという気がする.

シュミット氏は、この先5年以内には、「真実の予言者(truth predictor)」とでも呼ぶべきソフトウェアが政治家に釈明を求めるようになっているだろう、と予想している。人々はプログラムを使って、「一見、事実に基づいているかに見える発言」を実際の史料と照合し、その内容が正しいかどうかを確認できるようになるだろう、と同氏。

かりにグーグルが特定のサイトを排除しているとして、官製検索エンジンはそういうことをしないという根拠があるのか。グーグルは邪悪で日本政府は善良だ、と政府が考えているとすれば、おめでたいというしかない。現実には、国家のほうがいろいろなフィルターをかけ、「危険」なサイトを差別するおそれが強い。グーグルが不正をしたら、ヤフーに切り替えればすむことだ。競争が機能している限り、ユーザーは何も困らないのである。