雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

どこをみているかの違いだと推察するのですが...

勝ち負けの指標にもよると思いますが,そう捨てたものでもないでしょう.少なくとも生産額や研究開発投資,総付加価値でみると総合的には依然として日本がこれらの国を圧倒しています.清水さんはプロダクトアウト型のソフト産業を中心にみているから,過度に悲観的になるのだと思いますよ.

だとすると僕の表現力不足で申し訳ないですが、GNP1位のアメリカを目の仇にするのは当然として、そのほかインド、イスラエルフィンランド、韓国、といった英語圏(ラテン語圏及び英語が公用語に近い用いられ方をしている国々)に関してです。

すでにハイテクでこれらの国々に勝てる分野ってほとんどないのでは?

自動車ではそろそろトヨタGMを抜きそうですし,液晶も組立工場への投資でみると中国や韓国に追われていますが,カラーフィルタはじめとした基幹部品や製造設備では,相変わらず日本からの輸出製品に依存しています.世界の携帯電話電話市場でも中国・韓国で生産されているものが増えていますが,ミクロン単位の精密加工が必要な金型は日本に発注が来ています.強い製造業はいっぱい残っているんです.後継者難や設備の老朽化,ノウハウを持った技術者の中国・韓国企業からの引き抜きによるノウハウ流出など,深刻な問題も色々とありますが...
日本の不幸はなまじ国内市場が大きいので,多くの企業,特に製造を含めた情報産業が,とりあえず国内市場をみてしまうことです.清水さんの挙げたインド,イスラエルフィンランド,韓国といった企業は,国内市場が小さいので最初からグローバル市場を意識しなければならない.そこが,投資の重心の置き方に反映しているのでしょう.
財務パフォーマンスでみたときに日本の総合電機メーカーがSamsungNokiaと比べて見劣りするのは確かに大きな問題ですが,これも技術力による付加価値で差がついているのではなくて,雇用慣行やその他の経済的基礎条件に起因しているところが大きいでしょう.最近は財務諸表もだいぶ意識するようになったとはいえ,依然として日本企業の多くは人材,技術の両面でフローよりもストックに重きを置いてきたということで,これは技術蓄積の点で必ずしも悪い戦略とはいえないでしょう.以前,終身雇用,年功序列を理由にトヨタの格付けが下がったことがありましたが,GMの凋落は明らかにMBAで教えているような財務パフォーマンス重視の戦略が,技術軽視を招いた例です.GMについては,年金債務など,これからの日本企業が負うハンディと重なる部分もあり,貶すだけでなく彼らの苦悩から学ぶことも多々ありますが.

少子化などの影響で日本市場はこのままでは中長期的に縮退していく可能性が高い*1ですから,清水さんの問題意識の通り,高い技術力を持った日本企業が,もっとグローバル市場へ目を向けた展開を考えなければならない時期が来ているということはあるでしょう.製造業は既に海外市場に展開していますが,情報産業,家電産業はまず国内市場をみています.

白物家電は輸送費や生活文化への適応などの問題もあってローカルな市場でした.AV家電は以前であればSONY,松下の独断場でしたが,最近のCESなどをみていると最早Samsungの方が存在感があります.デジタル化で匠や品質管理よりも,投資のタイミングや生産最適化が製品の付加価値やコスト構造に効いてくるようになりますから,今後ますます海外でのデジタル家電での競争で,日本は苦戦する可能性が高いでしょう.情報産業に至っては非常にドメスティックで,2桁違いの輸入超過ですが,これは日本に限らずどの国も似たような感じです.

問題は英語教育よりも産業構造と,それに起因する戦略の欠如,多メーカーの乱立による投資の分散,重層的な下請け構造,研究開発投資・人材の大企業への集中,それに起因するイノベーション・マネジメントの困難さ等にあると私は感じています.なぜなら仮に英語教育に問題があり,先端技術へのキャッチアップが遅かったのであれば,自動車をはじめとした製造業でも,日本は負けていたと思うからです.もちろん,英語教育に問題がないといっているのではなくて,清水さんが眺めているような産業領域で,日本企業の前途が明るく見えない背景には,もっと大きなボトルネックがあると感じているのです.
(つづく)

*1:個人的には思い切って単純労働やサービス業を含めて移民を認めるとか,抜本的な少子化対策をとるとか,策を打つべきだと考えますが,戦略は基本的に最悪のシナリオを想定して組み立てるべきでしょう