即戦力がいなくなる職場ってどうよ
「即戦力」の使い勝手が悪いというのは、その通りなんだろう。彼らは自分の市場価値を理解しているから、労力に見合った賃金を払わない会社や、そこにいると自分の価値が目減りするような経験しかさせてくれない会社からは逃げてしまう。そういうものだ。
結局のところ企業の経営戦略とかポートフォリオの問題である。割高で流動性の高い即戦力に頼るべきか、それとも地道に生え抜きを育てるべきかというのは、
- 業務に必要とされるスキルが汎用的か
- 業務の熟練者と非熟練者の間に著しい生産性格差があるか
- 事業そのものは継続的か
- 事業の収益性は高いのか
といったことに依存する。
極言すれば、事業が汎用的専門スキルを必要とし、熟練による生産性向上が著しく、継続性が低く、収益性が高ければ即戦力を雇うべきである。ITの場合は結構な割合でこれが当てはまる。
きっと大学の先生が始めた翻訳業の場合、業務に必要とされるスキルこそ汎用的だけど、翻訳家でなくとも学生であれば高い生産性で翻訳でき、収益性はそれほど高くなさそうだ。だいたい学校の先生の学生に対する給与の相場観は、非常に低く抑えられがちである気がする。推察するに即戦力の翻訳家を繋ぎ止めることは難しい程度の薄給しか払わず、それを当たり前と考えていたのではないか。
まぁ白紙の方が騙されやすいから搾取しやすい、ということはいえるんだろうな。
会社が見切りをつけられたのか、会社に見切りをつけられたのか、どちらであるかはわからない。
だが、限定的なプロジェクトのためにアドホックに採用された「即戦力」の多くがその後「はなはだ使い勝手が悪い」社員になったことは間違いない。
「私はこんな仕事のために雇われたんじゃありません!」というようなことを彼らは口を尖らしてよく言っていた。
つまり、何ら「殻」を持たない非「即戦力」の方が、企業にとって「使い勝手がいい」というだけのことだ。個人にとっての是非ではなく。
私は大学や学校でまるきりの「即戦力」が育てられるとは思わないが、それぞれの職業分野のベースとなる具体的な知識は最低限きちんと教えるべきだと考えている。