誠実な嘘つきであるために
id:tigress-kyotoの露悪的でナイーヴな思考回路には惹かれていて,つい絡みたくなってしまう.
嘘がすぐばれる人はいい人だけど、いい商売人じゃない。それと同時にいい男(女)じゃない。どんな人間でも例外無く事実に嘘をつくことも、感情に嘘をつくことも前提で。私は嘘をつくことと、誠実でいることは必ずしも対立するってわけじゃないと思う。
僕は嘘を付くのが苦手だ.「そこは嘘つくところだろ」と気づいてることもあるんだけど,いちど嘘をついてしまうと後々考えて話さないといけないので,つい早い段階からぶっちゃけで話してしまう.そもそも足りない上に深酒で日々減っているであろう脳細胞は,嘘の上塗りよりも生産的なことに使った方がいくばくかの成果を上げられそうな気もするし.目の前の女性がどういって欲しいかを考えるよりは「来夏にSONYが出すαマウントのデジ一眼は何で差別化すべきだろうか.画素数か感度か連写性能か」とか「戦前の指導者たちは何故かくも国体護持に必死だったんだろうか.結局のところ象徴天皇制は残ったけれども,彼らの拘った国体はどうなったんだろうか」とか考える方が楽というか,目の前の相手から裁かれずに済むのである.
そう,女性のコミュニケーションって相手に謎かけして正解を返してくることを期待してたり「上手に騙して」的なところがあるよね.僕はそういうのがすごく苦手だ.だいたい相手のガッカリするような答えを返してしまう.いい男(女)というのは相手がどういう謎かけをしているか斟酌して,心地よい答えを返せるのだろう.素で返す自分は,それが誠実だと言い訳しているだけで,実際は頭を使うことを投げている,その投げ遣りさ,執着のなさが相手をキーっとさせてしまうし,キーっとされてもノラリクラリと振る舞うことにこちらも慣れてしまっている.
ところでid:tigress-kyotoは嘘を付く自分は許容できるけど,誠実でありたいってことだよね.たぶん,これは嘘を重ねても調子いい奴,狡賢い奴に堕ちない上でとても大切なことだ.誠実であろう,内心の一貫性や相手への思いやりを保ち続けながら,けれども頭をつかって相手の望む答えを返すか心を砕くと,素敵な嘘つきになれるのだろうか.たぶん僕はそこまで対人関係に執着を持てない.
やっと思いっきり嫌いになれる仕事を見つけた。おもちゃだ。整理整頓の対象だ。整理整頓してやりたい。思いっきり嫌いになれるものが好き。あ、思いっきり嫌いになれるものは、好きって言うより信頼出来るって感じか。それ以上嫌いになることがないんだから。
いま僕も嫌いで避けられるものなら避けたい仕事をひとつ抱えてるんだけど,すごく嫌いで主義に反するはずなのにノリノリで夜遅くまで悪知恵を働かせることに夢中になっている自分に気づいてハッとした.
得意とか苦手というのは案外と理性のレイヤだけど,退屈とか夢中というのは動物的なレイヤだ.理性のレイヤでは損得勘定とか主張の一貫性というか自己同一性を気にするけど,もう少し動物的なレイヤでは支配欲だとか承認欲求とか達成感とか,そういうものに突き動かされる.それより更に動物的なレイヤというのもありそうなものだけれど,怖いのでまだ垣間見ていない.
たぶん,自分がどの層の欲望に対して成功体験を持っているかで,行動の優先順位というのはかなり変わってくるのだろう.気づかないうちにあるレイヤの欲望に対して合理的に振る舞っている自分からみて馬鹿に見える相手の振る舞いが,単に別のレイヤの合理性に基づいていたというのはありがちな話だ.そして人間は,自分よりベタな行動に対する想像力は働くけれども,自分よりメタな行動に対する想像力は働かない.ということは,自分が馬鹿だと思っている,理解できない相手の行動ほど,相手の方が賢い可能性が高い気さえしてくる.もちろんベタと見下している相手の行動が自分の考えているよりメタだった罠もあるので,一概にはいえないけれども.
いまより近道する必要は感じないし,底の浅い嘘つきにも腹黒くもなりたくはないけど,もう少し腹芸ができると仕事にも深みが出てくるんだろうかとか考えることがある.身の回りも自分の心の中も矛盾に満ちていて,そこで都合良く分裂してしまうのではなく,苦労して折り合いをつける術に悩み続ければ,素敵な嘘つきになれるんだろうか.こんなことベタで書いている時点でダメげだけど...