雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

AJAXの本質と次の課題

いまさら確認するのも何だがAJAXって別に新技術ではない.DHTMLが設計された頃から念頭に置かれていたし,細々とあちこちのサイトで実装されていた.びっくりしたことに,僕が最近通った自動車学校のWeb予約システムもAJAXになってた.MyWebOSなんて99年だっけ.AJAXという造語というか,そういう定義を生んだGoogleの戦略がすごいのは,gmailgoogle mapでAJAXを奇貨に市場をひっくり返した点だ.けれどもAJAXにも限界はあるし,次の課題へ向けて面白い競争が展開されることになるだろう.
だから日本のベンチャーが「サービスのAJAX対応をしたいのだが,技術者がいなくて」的にコボすのは二重の意味で恥ずかしい.即ち既存の技術者がAJAX程度に枯れた技術にもキャッチアップできない*1ことと,既存のビジネスでAJAXをフォローアップしようとしているだけで,Googleのように成熟した市場をひっくり返しに行こうとしている訳ではなく,流行に乗り遅れまいと流されていることを意図せず認めることになってしまっている.
なかなか難しい立場にあるのは今更AJAXに梶を切ったことになっているマイクロソフトだ.少なくともIE4でDHTMLを提示した段階で,AJAX的なWebブラウザの使われ方を開発者自身が念頭に置いていたにも関わらず,Web開発環境やMSNは全くこれを意識できていなかった.IEの開発者がGoogleに転籍して初めて,彼らがブラウザ設計者として撒いた種を,みんなに注目してもらえた訳だ.RSSも同様でIE4のActive DesktopでCDFというRSSと同じRDF由来の技術を提案していたにも関わらず,普及に失敗し,いまやIE7やOffice 2007でのRSS対応を売りにする有様だ.Firefoxの売りであるLive Bookmark機能はIE4からCDF向けに実装されていたのだが,RSS購読に対応したIE7Firefox的なライブブックマークをサポートしていない.だから日常的にアンテナやはてブを巡回するのに僕はFirefoxを使っている.
結局のところマイクロソフトAJAXを活かせず,同じエンジニアがGoogleに行った途端にその技術が脚光を浴びたのには理由がある.即ちマイクロソフトAPIやブラウザの仕様を自由にいじれるけれども,Googleはそうでないということだ.GoogleがUser Experienceを乗っ取るには,既存インフラ上で,インフラ提供者の意図から独立したUser Experience抽象化Layerを別に構築するのが手っ取り早い.それがAJAXであり,Google Desktopであり,Firefoxへの寄与やOperaの支援なのだ.だからAJAXが市場のルールを変え脚光を浴びたことの本質は,クライアント・プラットフォームを持たざる者としての戦略性の妙である.
けれどもAJAXはPlatform Passingの手段として極めて戦略的といえる一方で,技術的には無理がある.XHTMLの表現力による制約は大きいし,現実にはブラウザ実装に対する依存性は高く,デバッグやテストは難しい.もっと直行した拡張性のある技術が求められよう.XForms(W3C), Appolo(Adobe) ,WPF/E(MS),UIEngine(UIEvolution)等がpost AJAX或いはenhanced AJAXの地位を狙っているのだろう.
これらの技術がAJAXほど注目を浴びるかどうかは疑問だ.google mapのようにGoogleAJAXを武器に成熟市場を次々とひっくり返したようなスペクタクルが展開される見込みがないからだ.現実にPC上では,これら技術がActiveXなりFirefox Extensionとしてブラウザによって統合され,シームレスに使われることになるだろう.そうすると主戦場はそもそもpost AJAXにないか,AJAXでも組込市場ということになる.TVポータルがどんな風になるかも微妙に気もするし,どうせテレビで双方向という発想そのものが外しているとすれば,むしろケータイのUser Experienceがこれからどうなっていくかの方が重要かも知れない.ただケータイってAJAXすらキーワードになってないし,ケータイ的Web 2.0ってどんなだろうというのも,よく分からないというのが正直なところ.
かつてUser ExperienceはOSなりデスクトップ環境が決めるという先入観があった.90年代に入ってMosaicJavaは,OS上層でUser Experience Platformをつくれることを世に示した.けれどもそこに目を奪われた途端,NetcasterやNetwork Computerの例を引くまでもなく沈没した.AJAXGoogleがUser Experienceの主導権を握ったことは,歴史的にみてすごい所業であるし,詳細に分析すべき華麗なるブルーオーシャン戦略である気がする.
ひところGooglezonの登場を予見するEPIC2014というFlashアニメが話題となったが,Web 2.0的にGoogleAmazonは事業統合しなくとも一貫したUser Experienceを提供できるし,GoogleAmazonの物流機構を所有ないし支配することによるシナジーがあるとは考えづらい.*2Googlezon的サービスを祖結合なWebサービスで実現することは,そう難しくない.つまりシナジー獲得のために経営統合の必要性は薄いのだ.
むしろクライアント側のユーザー体験を管理しようとした時に,Google Desktopの配布やFirefoxへの寄与だけでは物足りなくなる可能性が高い.とすると組込系も含めて端末系のUser Experienceを掌握でき,開発者から高い支持を得ている開発ツールを抱えている点で,AdobeGoogleにとって極めて魅力的な買収対象となるのではないだろうか.電子文書と操作性の両面でプラットフォーム独立のプラットフォームを持つ一方で,Cold Fusionはじめ多くのサーバー製品を持つ企業を買収しながら,相変わらずサーバー系に弱いAdobeは「あちら側の世界」についてしかアセットを持たないGoogleにとって極めて魅力的な協業先,買収案件であることは想像に難くない.もちろん全て,僕の妄想だけどさ.

*1:と少なくとも経営層は感じている

*2:閲覧や検索キーワードだけでなく,購買行動そのものを追跡することによって広告効果を更に高めるという路線は考えられる.であればAmazonだけでなく,ポイント機能付きPOS ASPサービスとかもセットで展開すると面白そうだ.