禁止脳の恐怖
埼玉の女子中学生が自殺した事件を受け、文部科学大臣がケータイについて「携帯の学校への持ち込みについては近々、国として方向性を出す。特別な場合を除いて持たせないとか、学校では使わせないとか」と語ったらしい。実に馬鹿げている。そんなに禁止が効果的なら、いじめを禁止すればいいじゃないか。だいたいケータイの学校への持ち込みを禁止は以前から通達が出ているのに、効果がなかったことへの反省がない。まあ多感な時代に人間関係のトラブルで自殺なんて確率的には起こる話だし、これだけケータイが普及していれば、ネットでのトラブルが関連していることもあろう。問題は起こるべくして起きたし、それを見越して玉を仕込んでいたのだろうか。
ケータイに限らず、製造業派遣とか、ダガーナイフとか、薬のネット通販とか、とりあえず禁止って話が多すぎて、なぜかくも即物的に政治が動くのか理解に苦しむ。ワイドショーをみて憤る年寄りに対する人気取りか、有権者を馬鹿にしているか、少なくともケータイを子どもに持たせている親のことは馬鹿にしているのだろう。いっそ失業とか自殺を禁止してはどうか。
わたしはひとりの保護者として、小学校低学年の息子に今のところケータイを持たせていないが、中学に入れば行動範囲も広がるし持たせた方がいいかは悩む。学校や保護者が事情に応じて個別にルールをつくって管理すればいい話で、ネットもケータイもよく分かっていない年寄りに指図される覚えはない。子どもはいずれケータイを持つし、そうすればネット上での人間関係のトラブルだって起こるのだから、できれば中学くらいから持たせて、ガキのうちにけんかさせておいた方が無難じゃないか。
こんな杜撰な政策論を許していたら、この国はいずれ全体主義国家になってしまうのではないか。飲酒運転や酔って暴れるやつが出るから酒は禁止、子どもを根性焼きで虐待する保護者が出るからタバコも禁止、年に数千人も交通事故で死んでいるから自家用車も禁止、飛び込み自殺する奴がいるから電車も禁止、飛び降り自殺できるから高層建築も禁止、子どもを駐車場に放置して熱射病で殺す親が出るからパチンコも禁止、喧嘩になるかも知れないからネットへの書き込みも禁止。銀行強盗に使う奴が出るから刃物は禁止。実に馬鹿馬鹿しいがケータイ禁止と大して変わらない理屈である。
それとも禁止って当局は責任持たないよってエクスキューズなのか。目立って自殺や事件が増えているわけでもないのに随分と傍迷惑な話だ。まず事件への脊髄反射で禁止を連呼する安っぽいポピュリズムこそ禁止して欲しいところ。