雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

ブロッキングの実証実験は 附則の国会通過が前提に

わたしも専門家として政府や業界でのブロッキング検討に協力してきたが、そもそも児童ポルノ禁止法の与党改正案に附則で「インターネットによる閲覧の制限」に関する技術の開発の促進が盛り込まれたことを踏まえて、この法律が昨年の臨時国会で成立することを念頭に準備してきた。
児童ポルノ禁止法改正案については26日から審議入りしたものの現時点で与野党に大きな隔たりがあり、今国会中に法案が通過するかは予断を許さない。既に予算がついて官民連携へ向けて協議会も設立されたところだが、国会での結論が出るまでは、憲法電気通信事業法で明らかに認められている範囲に絞って効果的な児童ポルノの流通抑止策について検討すべきではないか。
先行する欧州をみてもブロッキングを技術的に可能とすることが、その後の様々な表現に対する規制の端緒となっているようであり、国会審議では是非そもそも「インターネットによる閲覧の制限」の開発を政府が推進すべきか、また推進する場合の憲法上の通信の秘密・表現の自由との整理、ブロッキングによって新たに取得できる様々な情報をどこまで捜査に活用できるかについて慎重に審議していただきたい。
政府での検討は与党案附則が国会を通過することを前提とした準備で、国会で議論している最中に国民の自由を制限し得るインフラ整備を官民で勝手に進めては、国会を軽視した官民の暴走となってしまう。
ブロッキングの問題を改めて整理すると、

  • 国が実証・補助またはISPに義務づける場合の憲法上の通信の秘密・表現の自由との兼ね合い
  • ISP等が実施する場合の電気通信事業法上の利用の公平・通信の秘密との兼ね合い
  • ブロッキングのログをどこに集約するか、ログをどこまで捜査に活用するか
  • 憲法が国民に保障している権利を制約し得る施策であり、最低でも国会決議が前提

といった点になる。民間の自主的取り組みであれば、電気通信事業法上の「通信の秘密」「利用の公平」さえ整理すれば進められるが、政府が実証実験などに関与する場合には、憲法との整理も必要となるだろう。以下、備忘録的に細かい論点を整理してみる。

  • 誰がブロッキングの費用やインフラを負担するのか。国から補助金を出したりISPへの委託事業にすると、電気通信事業法だけでなく憲法上の通信の秘密や表現の自由との兼ね合いが出てくる。ISPの自主的取り組みとなると対応にバラツキが出ることが考えられる。イタリアのように国がISPに対してブロッキングを義務づける場合も憲法との兼ね合いが出てくる。
  • DNSポイズニングでもハイブリッド方式でも「このページにアクセスすることは違法なので遮断します」的なページを出すが、このページはISP毎に置くのか。このページの運営を一カ所に集約すれば、ISPにログ開示を請求することなくアクセスログから容易に被疑者を抽出できる。「通信の秘密」との兼ね合いでいうと、通信をどの単位で解釈するかがあって、DNS要求・応答/HTTP要求・応答と細粒度でみると傍聴していないが、Web閲覧を大括りでみると、特定ページを閲覧した場合に発信者情報が捜査機関に渡ることを利用者は予期していないので、やはり通信の秘密を抵触していると考えることもできる。
  • 悪意を持って児童ポルノを蒐集する児童性愛者であれば、多段プロキシ等を使ってブロッキングを迂回しようとする。これらを止めるためには匿名プロキシーP2Pソフト、踏み台ホストなどのリストも必要となるが、技術的に現実的とはいえず、これまで検討されてもいない。逆に悪意なき利用者を法的リスクから保護する目的であれば、市販のセキュリティソフトやフィルタリングソフトの方が柔軟かつ包括的に対応できる。青少年インターネット利用環境整備法を受けてフィルタリングソフトのプレインストールが進んだところでもあり、まずは現行法の枠内でやれることを十分に検討すべきではないか。

(検討)
第二条 政府は、漫画、アニメーション、コンピュータを利用して作成された映像、外見上児童の姿態であると認められる児童以外の者の姿態を描写した写真等であって児童ポルノに類するもの(次項において「児童ポルノに類する漫画等」という。)と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究を推進するとともに、インターネットを利用した児童ポルノに係る情報の閲覧等を制限するための措置(次項において「インターネットによる閲覧の制限」という。)に関する技術の開発の促進について十分な配慮をするものとする。
2 児童ポルノに類する漫画等の規制及びインターネットによる閲覧の制限については、この法律の施行後三年を目途として、前項に規定する調査研究及び技術の開発の状況等を勘案しつつ検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。