新たなP2P規制ではなく現行法の執行が課題
P2Pを通じた児童ポルノ流通は、現行児童ポルノ法で児童ポルノの配布として既に違法化されているし、著作物にしても送信可能化権で手当てされている。問題はP2Pを通じた児童ポルノ流通が法規制されていないことではなく、違法であるにも関わらず法執行できていないことだ。仮に新法でP2Pを規制したところで児童ポルノの配布が違法性阻却される訳ではないし、いずれにしても被疑者の故意性は裁判所が判断することになるだろう。
Winny等の利用者に限定して、児童ポルノが共有状態になることを回避する義務を課し、その回避義務に違反した行為を過失犯として処罰する方法が考えられるのではないか。
問題はP2Pやワームを通じて現に権利侵害情報が流通していることであり、これは立法を通じた違法化によって実態として改善される訳ではない。既知の違法なファイルについてアンチウイルスと同様の手法でサーバーや端末が識別することは技術的に難しくない。InternetのEnd to Endの原則に沿っている点でISPによるブロッキングよりはマシだという考え方もある。
必ずしも単純所持が違法化されなくとも、違法情報の配信による法的リスクから利用者を守るといった社会的ニーズが顕在化すれば、近い将来CGMサービスやセキュリティ製品に実装される可能性はあるのではないか。
しかし、Winny等には、名誉毀損等の人権侵害ファイル、個人情報保護に反する流出ファイル等も永続的に流通しており、それらの流通を阻止すべきとする考え方は、児童ポルノ流通の阻止と共通するところではないだろうか。
AmazonがKindleから再版権を持たない出版社の販売した「1984」を削除して騒動になったが、技術的には既知の権利侵害情報をサーバーやPCから駆除することは難しくはない。どこまでやるかが問題だし、マルウェアの定義も時代を追って繰り返し検討されてきた。
規制の一貫性を求めて厳しいところに合わせようとすると別のところに凸凹ができて、またその厳しいラインに合わせろという要求を惹起して際限なくなってしまう。いま欧州のブロッキングを巡る議論で起こっていることだし、日本での児童ポルノの単純所持違法化やブロッキングの検討も、そういった繰り返し過程としても俯瞰できるだろう。
技術的にできることを何でもやっていいのかという問題もあるし、技術的にできると分かった途端に不作為責任が発生しかねないところが難しいけれども、効果と費用、効用と弊害を両睨みに、バランスを探っていくことになるのだろうか。
いずれにせよ本来の目的に沿って手段を検討すべきで、規制そのものの平準化を図ろうと対案を出すと、気づかぬうちに規制強化のスパイラルに嵌ってしまう。自戒も込めて。