雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

難しさを増すAR時代の企業法務

この1年近く議論となっていたGSVだが、運用ルールを策定・公開する方向となったようだ。対岸の火事という訳でもなく、AR的なアプリケーションが増えるに従って企業法務は難しさを増すだろうなと憂慮している。問題は配慮すべき法律の範囲が明確でないこと、監督官庁が明確でないこと、そもそも法体系がこういった新技術を前提としていないことにある。

総務省は24日、グーグル日本法人に対して、同社が展開する地図検索サービス「ストリートビュー」をめぐり、個人のプライバシーなどに配慮した運用ルールを策定するように求める方針を固めた。路上から撮影した風景などをインターネット上で立体的な画像として閲覧できる同サービスに対しては、個人の生活環境などが判別されるとして、地方自治体などから強い反発が起きていた。グーグル日本法人も運用のルール化を受け入れる方向で調整を進めている。

仕事柄、社内外で法律の専門家と仕事をする機会が多いが、法律といっても法文だけでなく関連する政省令・告示・コメンタール・判例や法理など諸々を追っかける必要があり、法曹資格を持つ方々であっても、あらゆる分野に精通している訳ではない。外部の弁護士事務所に頼む場合も、確認する法律の範囲を絞らないことには費用も時間も青天井となってしまう。しかるにGSVだが、ちょっと考えるだけでもプロバイダー責任制限法、個人情報保護法といったICT関連の法律に留まらない。
例えば2.4mだったカメラの高さを2mへ低くして撮影し直すことを既に発表しているが、これは民法225条2「当事者間に協議が調わないときは、前項の囲障は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ二メートルのものでなければならない。」といった規定を参考にしていると考えられる。他にも人物が写りこんだ場合の肖像権、建物が写りこんだ場合の意匠権など考慮すべき広範な事柄に配慮する必要がある。
法解釈に不安がある場合は監督官庁にお伺いを立てる場合があるが、これも難しい。GSVのような景観情報サービスは、情報サービスと捉えれば経済産業省、通信コンテンツや自治体対策と捉えれば総務省、地図情報サービスと捉えれば国土交通省消費者問題と捉えれば消費者庁(内閣府)、肖像権やら民法の解釈と捉えれば法務省、犯罪対策と捉えれば警察庁、建物の意匠権と捉えれば文化庁、各省調整を仕切るべきは内閣官房IT担当室ではないかとか、考え始めると際限なく広がってしまうし、どこに相談しても簡単には回答できないのではないか。
法的課題を払拭できない割に収益構造もみえないから、日本のカーナビメーカーでも企画流れとなったようだし、シアトルとサンフランシスコの市街地で試験運用しながら商用化に踏み切らなかった会社もある。法律の定める国民の権利は尊重されるべきだが、杓子定規に解釈しては何も新しいことができなくなってしまうというジレンマの中で、運用ルールを公表させて利用者だけではない地域社会との調和を図ろうとするアプローチはバランスが取れているが、似て非なる境界的融合なサービスが出てきた場合に時間がかかり過ぎる。複合現実などの普及で同様の境界的なサービスが増えてくることを考えると、大陸法的な法運用では運用に限界があるだけでなく、英米法諸国に後れをとって法執行が空洞化することも懸念され、グローバル化を前提としたイノベーションに対して柔軟に対応できる法的枠組みを考える必要があるのかも知れない。