雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

法も亦ひとが創り,ひとが動かす

反転―闇社会の守護神と呼ばれて』はライブドア事件が国策調査という言葉を普及させたが,そもそも検察,特に特捜部の捜査とは国策調査なのだ,ということを納得させてくれる本書.石橋産業事件で有罪判決を受けた敏腕ヤメ検弁護士が記した.
日本を法治国家だと信じているナイーヴな方にお勧め.バブル期の様々な疑獄事件の裏事情について本書が正確に記述しているかどうかはさておき,本書を読むと検事やヤメ検弁護士の心象風景や職業倫理がどのようなものかであるとか,彼の目に映ったバブルとは何であるかが活写されている.
本書を読むと新聞の社会面で鉢合わせしたときは胡散臭いと感じた往年のバブル紳士たちが,人間的に魅力的な企業家であったのではないか,という気がしてくる.恐らく世の中には様々な物事の見方があって,世に通すそれは数ある中で通りのいい,或いは誰かしら勝者にとって都合のいい見立てであるのかも知れない.
とはいえ刑事罰を受けた著者の弁明とも受け止め得る手記をどこまで信じ,そこから何を受け止めるかは,読書個々人の見識にも依るのだろう.
しかし,こういった著者を掘り出してくる幻冬舎の編集者はすごいなと感服する.世界の或る領域は,降りた人の口からしか語られないこともあるのだ.それも怖いものなしの.情報を聞きだそうという時に,渦中のひとや肩書を頼って質問しにいくひともいるが,彼らはゲームから降りていない故に,話せることとそうでないこともある.一次情報資料を取りたいのであればさておき,思考回路を理解したり,歴史を学ぶには勝負を降りたひとの,身も蓋もない指摘を聞くことの方が時として有用なのである.
折しも故なき官僚叩きや予算削減・規制緩和の煽りを受けて,振興政策が鳴かず飛ばずの政策官庁よりは,今なお法的な権力を持ち続けている法曹界を志望する優秀な学生が増えていると聞く.そういった世界で実際に偉くなるのは清濁併せのみつつ,周囲や部下に対して配慮を欠かさないひとであるかも知れず.そういう社会は再びやってくるのかどうか考えさせられる.