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なぜ融合法制の国会提出を急ぐのか

一旦は見送りと報じられた通信と放送の融合法制が当初の予定通り2010年通常国会に提出されるという。融合法制は自民党政権下での数年に渡る検討とパブリックコメントを経て、直ちにネット規制に結びつく要素は見直されたが、法律の構成としては今後の法改正でネットを含む広範な表現に網をかけることが容易となる虞までは払拭できていない。新たに設置されるフォーラムで表現の自由や通信の秘密の観点から融合法制について議論するというが、そこでの議論は融合法制にどう反映されるのだろうか。

放送と通信の融合法制
問:
大臣、すみません1点。先ほどの国民の権利保障等の在り方を考えるフォーラムの中で、放送と通信の融合法制について議論をするということですけれども、来年の通常国会に融合法制を提出する方向で動いてきたと思いますが、そのスケジュールは変わりございませんか。
答:
それは変わることはございません。ただ、この間公明党の澤議員さんからも指摘がありましたけれども、簡単に通信と放送の融合と言っていいのか。そこで失われる報道の自由とか、あるいは通信の秘密の懸念といったことはきちんとやりなさいよというのが、公明党の澤議員の御質問でした。私はそのとおりだと思いますので、そのことを配慮しながらしっかりとした法整備に取り組んでいきたいと思います。

融合法制について改めて「通信・放送の総合的な法体系の在り方」<平成20年諮問第14号>答申(案)を読み直すと、コンテンツ規律は旧放送法の範囲しか含まれず、地上放送と特別衛星放送(BS)には基本計画・総合編成で縛りをかけ、一般衛星放送(CS)には縛りをかけない。
当初はオープンメディアコンテンツとして規制の検討されたネット上の情報発信はコンテンツ規律の対象に入らない。全体的な規制の対象範囲は現行法制を踏襲しており、直ちにネット規制に繋がるわけではないが、立法趣旨として規制の根拠が電波の希少性ではなく社会的影響力に置かれるとすると、規制範囲を拡大する法改正が容易にはなるだろう。
2007年夏ごろの総務省による説明では「数万人にフル画面サイズの画質で同時ライブ送信する」場合に当時の分類で規制の対象となる特別メディアサービスに当たるとの説明だったが、この基準では少なくともHD放送の始まったCS放送やIPTVが、いずれは高品質化したニコ生やらUstreamまで入ってしまう。提出される法案では現行法と同等の規制であっても、遠からずネット放送やポータルサイトの社会的影響力が高まったと判断された段階で、容易に法改正で規制できてしまう懸念もある。なぜコンテンツ規律で地上放送とBS放送を特別扱いするのか、放送法の歴史的経緯を踏まえているだけで趣旨が明確ではないところが心配だ。
そもそも多チャンネル化とネットの普及で消費者の選択肢は劇的に増えたのだから、放送法が総合編成などコンテンツを規制する根拠は薄まっているのではないか。民放さえなかった時代にできた法律の規制権限を、ネットの時代にどこまで維持する必要はあるのだろうか。これまでBPOが扱ってきたような誤報やヤラセの問題は、テレビだけではなく雑誌やネット・メディアでの誹謗中傷に対しても救済を求める声もあるだろう。業法の枠組みだけでなく、民事訴訟などの司法の使い勝手を高める方策や、BPOのような自主規制機関を充実させる方向性も考えられる。
融合法制は竹中懇談会で検討されたNTT再々編を与党合意で先送りした後、現行法制を踏襲する方向で縦割りから横割りにするという、政治的で目的を見失った同床異夢の議論だったという見方もできる。仮に融合法制が通ったところで、デジタルコンテンツの流通を阻害してきたとされる業界の商慣行や硬直的な著作権法の運用が改善される訳ではない。一方で融合法制のメリットといっても通信・放送の周波数共用や空き地利用など、個別法の改正で手当てできそうな内容ばかりではないか。
新政権で過去の競争政策への評価や今後の課題について議論するICTタスクフォースや、新たに報道の自由や通信の秘密の懸念について検討する「今後のICT分野における国民の権利保障等の在り方を考えるフォーラム」が立ち上がった。これらでの検討を踏まえて国会に提出しても遅くはないのではないか。